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エスカルゴ

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フランスのエスカルゴ消費事情

 エスカルゴをこよなく愛するフランス。年間にフランスで消費されるその量430万匹。 重さにすると25,000~30,000トンにのぼります! そのうち3分の2(すなわち約20,000トン)が年末、主にクリスマスに消費されています。ブルゴーニュでは一年中エスカルゴを食べていた記憶がありますが、クリスマスといえばフォアグラ、牡蠣、七面鳥などと並び「エスカルゴ」も定番の御馳走なのです。
産地で見ると、ブルゴーニュやフランス東部(アルザス、フランシュ=コンテ地方)、中央部のオーベルニュ地方、ローヌ・アルプ地方が有名です。ボルドーでもよく食されており、エスカルゴがぶどうの葉を好むからか、昔からワインの産地との深い繋がりがみられます。

エスカルゴ・ド・ブルゴーニュという品種

 フランスで食用のエスカルゴは20種類程いると言われていますが、主には4種類で、中でも一番人気は「エスカルゴ・ド・ブルゴーニュ(Escargot de Bourgogne)」です。何といっても身が締まっていて、大きく、美味しいのです。かつてはぶどう畑や草原、林や森などあちこちで捕れたのですが、悲しいことに今は事情が変わってきています。ぶどう畑で使われる農薬、農地の大規模開発、カタツムリが住処としていた自然環境の減少などにより、数がどんどん減ってきているのだそうです。にもかかわらず、今もフランスで一番消費されているのはこの「エスカルゴ・ド・ブルゴーニュ」なのです。驚くことに現在は多くが輸入されていて、純正フランス産は消費量のたった2%なのだそう! ちなみにブルゴーニュの名を冠していますが、この地方でのみ捕れる品種という訳ではなく、フランス全土や中央ヨーロッパに広く生息しています。フランスにやってくる多くは東欧で収獲され、フレッシュな状態で輸入され、国内で加工されています。

エスカルゴ・ド・ブルゴーニュを守るために

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 他に比べ、養殖が難しいのもこの品種の難点となっています。気候に左右される上に、食べられる状態にするまでに手間がかかる事、その割に収入が少なく安定しないなどの理由から、生産・加工業者の数も減ってます。これではいけないと、エスカルゴ・ド・ブルゴーニュとその生産者を守るための法律がフランスで定められました。4月1日から6月30日まではエスカルゴを捕ったり、売ったりが禁止されました。また解禁後も30mmより小さいものは捕らないように定めており、これらに違反すると罰金が課せられます。 また近年は減農薬や無農薬によるぶどう栽培とワイン造りの取り組みも盛んになり、エスカルゴの数が増えてきた、との嬉しい報告が上がっています。

フレッシュなエスカルゴにはご用心

 話しは逸れますが、ある時、ディジョン近郊の田舎にあるカシス(ブルゴーニュはカシスリキュールでも有名)農家さんを訪れた際、いいものがあるから見てみるか?と小さな作業小屋に連れて行かれました。解禁後に近所の森で採ったという大量のブルゴーニュ・ド・エスカルゴが殻から外され、ぐつぐつと鍋で煮られていました。すでに大半は下処理が終わり、冷凍用の容器に詰められ、高々と積み上げられていました。家族など内輪で消費するのだと言っていましたが、驚きの量です。「煮終わったのを食べてみるか?」とニヤリとエスカルゴを楊枝に刺して差し出してくれました。「Oui~!」と喜んで口に入れましたが、味付けされていないエスカルゴ。まだぬめり気が残っていて、口に入れた瞬間に生のカタツムリ感が口中に広がり、何とも言えない食感に青ざめました。「なぁ、美味いだろう?」と嬉しそうに期待を込めた瞳で見つめられ、「本当に最高」と答えたものの、飲み込むまでが大変でした...。聞くと、食べる時は香草を加えた湯でさらに数時間煮てから料理するのだそう。味を付けていない途中段階のエスカルゴは何があっても口にしてはいけない、と決意した瞬間でした。

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ブルゴーニュのエスカルゴが有名になったのはロシア皇帝の口コミ?

 ブルゴーニュは昔からエスカルゴの産地として有名だったようですが、どうしてこんなに有名になったのでしょう? 200年程前にさかのぼります。
フランスの政治家で外交官、外相も務めたタレーランと偉大な料理人アントナム・カレームが関係しています。タレーランは大変な美食家としても知られており、アントナン・カレーム(王様の料理人、料理人の帝王と評され、料理を芸術にまで高めたといわれる偉大な料理人であり菓子職人。多くの名著を残した。)を雇い、料理を最大限に活用した外交を繰り広げ、大きな成果を上げました。ヨーロッパ侵攻を推し進めたナポレオン戦争でロシア侵攻に失敗し、敗戦したフランスがほぼ現在の国土を保っていられたのはウィーン会議中にタレーランが何度も催した夕食会のおかげと言われています。アントナム・カレームの料理が大変な評判を呼び、フランスの立場を押し上げたのです。料理の力で国境線に影響を与えてしまうとはすごい事ですね。
 話しを戻しましょう。そんなナポレオン戦争敗北後の1814年、フランスを訪れていたロシア皇帝アレクサンドル一世のための食事会が開かれました。タレーランはこの時もブルゴーニュ(パリという説もある)でシェフをしていたアントナン・カレームに料理を依頼し、エスカルゴを使った新しい料理を作るように命じました。そしてこの時生まれたのが「エスカルゴのブルゴーニュ風(les escargots à la bourguignon)」でした。ニンニクとパセリ、バターの詰め物をして殻に入れてオーブンで焼くあのレシピの誕生です。この食事会は大成功を収め、ブルゴーニュのエスカルゴとこのレシピが一気に知れ渡りました。アレクサンドル一世は、初めて食べたエスカルゴがあまりに美味しかったため、帰国後多くの人々に語ったとされています。当時ロシア皇帝はヨーロッパで影響力を持っていましたから、宣伝効果も抜群だったに違いありません。それ以来エスカルゴといえばブルゴーニュとなったようです。「エスカルゴのブルゴーニュ風(les escargots à la bourguignon )」は使用する材料は今もその当時のままです。

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エスカルゴの品種について

フランスで食べられるエスカルゴは主に4種類。下にまとめましたので参考にしてください。名前は地域によって変わることがあるので、品種名を覚えておくと自分が食べているのがどのエスカルゴかが良く判ります。

品種 特色
Helix pomatia/
エスカルゴ・ド・ブルゴーニュ (Escargot de Bourgogne)
特徴:ブルゴーニュのエスカルゴ。養殖が難しいため、市販されているものは東ヨーロッパで採られたものが多い。
産地:フランス全土、ヨーロッパ中部
大きさ:40~55 mm
Helix aspersa/
プチ・グリ (Escargot petit gris)
腸の部分を含めて丸ごと食べることができる。養殖可能。
産地:地中海沿岸(ヨーロッパ、北アフリカ)、フランス西部
大きさ:28~35 mm
Helix aspersa/
/ グロ・グリ(Escargot gros gris)
養殖可能。
産地:北アフリカ
大きさ:40~45 mm
Helix lucorum/
トルコのエスカルゴ (Escargot turc, Escargot classique)
エスカルゴ・ド・ブルゴーニュに似ているため「エスカルゴ・ド・ブルゴーニュ」と偽って販売されることがある。殻の模様で見分けられる。ブルゴーニュより身がしまっておらず、味は落ちるが、養殖はしやすい。
産地:バルカン半島、トルコ
大きさ:35~40 mm

参考

原産地呼称について

産地偽証?!と心配されるといけないので、少し解説を加えることにします。エスカルゴ・ド・ブルゴーニュは地域名が付いていますが、これはカタツムリの種類名。正式品種名はHelix pomatiaといいます。エスカルゴはワインやチーズ、オリーブオイルなどのようにA.O.C(原産地統制呼称認証制度)※1で定められていないので日本で同じカタツムリが捕れても、ポーランドで捕れても「エスカルゴ・ド・ブルゴーニュ」と名乗ることができます。
 ただし、EUやフランスで「エスカルゴ・ド・ブルゴーニュ」の名で製品を販売するときは原産地名や品種名を表示することと定められています。

※1 A.O.C.(Appélation d'Origine Contrôlée)原産地統制呼称
1905年に始まったフランスの認証制度のこと。INAO(Institut National de l'Origine et de la Qualité)という組織が定める。高級ワインの品質保証を目的に生まれたが、現在はワイン以外にもチーズやオリーブオイル、生ハム、食肉など広く適用されている。産品の原料や品種、飼育や生産方法について規定し、原産地の特徴が明確な産品について呼称の利用を認めて品質を認証するもの。

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