レシピの話

フランス地方料理を巡る旅

ヌーヴェル=アキテーヌ地方

ペリゴール風サラダ

Salade Périgourdine

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鴨好きに捧げる、鴨づくしのサラダ

 カナール(鴨)好きの方にはぜひ味わっていただきたいサラダです。鴨のフォアグラ、生ハム、コンフィなど、異なる調理法で様々な部位を楽しんでいただけます。そう、今回は『ヌーヴェル=アキテーヌ地方』にあるペリゴール地方のレシピのご紹介です。
フランス南西部の『ヌーヴェル=アキテーヌ地方』という名前、聞き慣れない方も多いかもしれません。これまで「アキテーヌ地方」、「リムーザン地方」、「ポワトゥー=シャラント地方」といわれていた3つが統合され、2016年の1月1日より「あたらしいアキテーヌ地方」という意の一つの地方圏になりました。
 その中のドルドーニュ県のあたりをペリゴール地方と呼んでいます。あまり知られていないかもしれませんが、フランス人にはとても人気のあるエリア。
 ドルドーニュ川沿いに中世の街並みや、村々、古城が点在し(古城の数は1000とも言われています)、自然に溢れ、風向明媚。しかもフォアグラやトリュフなどの食材にも恵まれ、食べても、観ても楽しめるエリアなのです。ラスコーの洞窟でも世界的に有名ですね。france-1600910_1920.jpgではさっそくレシピを見ていきましょう。

材料

<材料>(4人前)
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  • 鴨:1羽
  • <コンフィ用・フュメ用>
  • 〇もも2本、胸肉1枚、砂肝(今回砂肝は鶏で代用)200g(それぞれの重量に対して)
    (マリネ)
  • 岩塩 : 1.5%
  • 胡椒:0.1%
  • 砂糖 : 0.3%
  • タイム : 適量
  • ローリエ:1枚
  • ニンニク(エマンセ※1):1片

  • <生ハム用>
  • 〇胸肉1枚(この重量に対して)
    (マリネ)
  • 岩塩 : 5%
  • 黒胡椒:0.5%
  • 砂糖 :2.5%
  • タイム :適量
  • ローリエ:1枚
  • ニンニク(エマンセ): 1片

  • フォアグラ テリーヌ(市販品): 60g
  • グレス・ド・カナール(鴨脂)又はラード: 適量
  • コニャック(ナッペ※2用):少々

  • サラダ
  • ジャガイモ(ロンデル※3):120g
  • さやいんげん:6本
  • トマト(ロンデル):2個
  • ニンジン(ロンデル):80g
  • ガルニチュール
  • 干しブドウ:20粒
  • とうもろこし(ア・ラ・ヴァプール※4) : 20粒
  • クルミ(ロティ※5) : 20個
  • ベーコン(バトネ※6に切り、ソテー):40g
  • ラディッシュ(エマンセ):2個
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  • ヴィネグレット
  • クルミオイル 又はグレープシードオイル: 60ml
  • 白ワインビネガー(マイユ): 20ml
  • 種入りマスタード(マイユ): 20g
  • 塩、胡椒:適量

<フランス料理用語注釈>

※1・・・エマンセ(émincer)薄くスライスする
※2・・・ナッペ(napper)ナッペする。液体、ソースを均等にかけること
※3・・・ロンデル(rondelle)輪切り
※4・・・ア・ラ・ヴァプール(à la vapeur)蒸し調理で
※5・・・ロティ(rôtir)ローストする、焼く
※6・・・バトネ(bâtonnet)小さな棒状
※7・・・エギュイエット(aiguillette)細長い薄切り肉〈1.家禽の切り取った胸肉、あるいはさらにそれを縦に薄くそぎ切りにしたもの 2.家禽肉の場合はフィレ肉を細長く切ったもの〉
※8・・・シュミネ(cheminée)(壁につくりつけた)暖炉、炉のこと
※9・・・アロゼ(arroser)(液体を)軽くかける。ロースト中に溶けた脂肪や焼き汁をかけて乾燥を防いだり、あるいはグラタンに溶かしバターを塗り、綺麗な焼き色をつけること

作り方

  • もも肉2本・胸肉1枚・砂肝200gをそれぞれマリネ材料で12時間マリネする。
  • 1を水洗い、水切りし、もも肉と砂肝をそれぞれ油脂と共に真空パックし、スチコンで加熱してコンフィにする(スチーム・70%・4時間)
  • 胸肉はスチコンで燻製にする(燻製・芯温が54℃になったら出来上がり)。
  • もう1枚の胸肉をマリネ材料で36時間マリネする。
  • 4を水洗いし、30分間水にさらし、水切りをし、3日間ピチットシート(浸透圧脱水シート)に包む。シートは毎日替える。
  • 5にコニャックをナッペし、冷蔵庫の冷気の当たる場所で4~6日間、乾燥させる。
  • ジャガイモ(30分)、ニンジン(30分)、さやいんげん(3分)それぞれスチコンで加熱する。(スチームモードで)
  • コンフィにしたもも肉・砂肝をフライパンで周りをこんがり焼き、もも肉は半分に切る。
  • 燻製した胸肉と胸生ハムをエギュイエット※7にする。
  • 器にサラダ類、肉類を並べ、ガルニチュールをちらし、ヴィネグレットをかける。
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マイユのビネガーと種入りマスタードをたっぷり効かせたビネグレット。多過ぎるかなと思うくらい効かせるのがおすすめ


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もも肉は真空調理でコンフィにした後フライパンで表面をこんがり焼きます


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マリネの後の胸肉は今回スチームコンベクションの新しいスモーク機能を使って火入をしました

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おまけの手羽ももも肉と同様にコンフィに。フォアグラも盛り付けます


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鴨の胸肉の生ハムはマリネした後、3日間ピッチシートで水分を抜き、さらに4~6日冷蔵庫で乾燥させます。とても美味


シェフエピソード

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1/4が森林と言われるフランスの西南部、ペリゴール地方。あの有名な壁画がある旧石器時代の「ラスコー洞窟」(1940年に発見)がある場所と言えば分かりやすいかもしれません。皆さんも中学校などで習った憶えがあるのではないでしょうか。この地方は古代ローマ時代から栄え、数々の城や要塞、教会が建設されてきたそうで、このような地理的、歴史的条件と鵞鳥飼育ととうもこし農業の出会いによってフォアグラの産地となっていきました。世界的には、フォアグラとトリュフの名産地としてとても有名ですが、とうもろこし、くるみも名産品なのです。今回のSalade Périgourdineは、この名産品をこれでもかと盛り込んだ豪華なご馳走サラダです。

  家庭やレストランによって内容は様々ですが、鴨のコンフィだけは必ず入るようです。そこにフォアグラが入れば、もう完璧。レストラン料理になります。高級フランス料理の象徴でもあるこのフォアグラは、歴史も古く古代ローマ時代から食されてきました。鵞鳥にいちじくを大量に食べさせて、太らせ、絞める前に蜂蜜入りの赤ワインを飲ませてから、肝臓を取り出し、すぐに蜂蜜入りの牛乳に浸して膨張させてから、調理していたそうです。ものすごい工程ですね。手が込んでます。
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ドルドーニュ川沿いは古城が並び、観光地としても人気のエリア

 今回は、たまたまタイミングよく、頂いた「フォアグラのテリーヌ」が手元にあったので、それを使わせていただきました。フォアグラの調理に関しては、また別のお料理の時に・・・。
 現代は、鵞鳥や鴨にガバージュして(とうもろこしを大量に流し込むように食べさせる)太らせてから、肥大させた肝臓(フォアグラ)を取り出します。使う料理人の好みやお店のグレード・規模によっての使い分けもあると思いますが、一般的にテリーヌ類には、フォアグラ・ド・オワ(鵞鳥)を。ポワレ(フライパン焼き)などの焼きには、フォアグラ・ド・カナール(鴨)が適していると言われています。フォアグラを取った後の肉や内臓は、捨てることなくコンフィなどに加工して保存食として食されます。Salade Périgourdineには、フォアグラと共にもうひとつの主役として、この鴨のコンフィや燻製、生ハムも盛られます。
 

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日本に比べてフランスのレストランのフォアグラの使用量は相当なものでした。日本での経験では、テリーヌかカットしてポワレ、ピューレにしてムースにしたり、ソースに入れるくらいしかなかったのですが、フランスでは、丸のままトーション(布)で巻いて、コンソメでポッシェ(茹でる)したり、丸のままオーブンでロティ(ロースト)したりと豪快な調理法を経験できました。なかでも「シュミネ(暖炉)※8」での丸焼きは、とても衝撃的で、他では中々、経験できない調理法でした。

シュミネ(暖炉)の話

「シュミネ」のお話を少し。日本では、中々、お目にかかれませんが、フランスの田舎のレストランの客席には必ずと言っていいほど暖房用のシュミネがあります。調理用として調理場内に設置しているお店も結構あります。冬場ジビエの季節、在仏2年目に働いていたお店では、調理場内のシュミネで薪が焚かれ、様々な肉をローストしていました。仔羊、鶏、鹿、真鴨、山鶉、雉等々。なかでも、「grive / グリヴ」(つぐみ)という小さな鳥は、アセゾネ(塩・コショウ)して、腹にトリュフバターを詰めて、アルミホイルで包んでからシュミネの端っこに転がしておきます。時々、ひっくり返しながら、じっくり火を入れていきます。焼き上がったら、アルミホイルを外して、表面を薪火であぶり、皿盛りし、ソースとガルニチュールを添えて出していました。可食部分が少ないので、確か1人前、2羽だったと記憶しています。

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大きな肉の塊をローストするときは、肉に回転棒を刺して、自動回転させながら焼いていきます。この肉の塊は、客席に運んでクリヤン(お客様)に見せるので、綺麗に焼き上げなければなりません。なので、時々というか、けっこう頻繁に滴り落ちる焼き油で付きっ切りでアロゼ※9します。しかし、シュミネ正面の熱量たるやものすごいので、アロゼ係の子は、まるでミイラのように顔と手にトーション(鍋つかみ用布)をぐるぐる巻きにして、ルーシュ(レードル)を握って、シュミネ前に立ち作業します。トーションから出ている目の周りが、みるみる真っ赤になって火傷してしまいそうです。担当の14、5歳のアプランティの子達は、汗と涙を流しながらの過酷な作業です。一応、私の部署の仕事なので、忙しいストーブ前での調理作業の合間を縫っては、彼らに氷入りの「ミント風味シロップ水」を飲ませ、励ましながらアロゼを続けてもらいます。シェフのチェックでOKがでれば、彼らは、速攻でコックコートを脱ぎ捨てて、裏の川や雪で身体を冷やしに一旦、外に出ます。その間、ローストした肉をメートル・ドテル(給仕長)が客席に運んで、お客様にプレザンテ(お見せ)し、再び調理場に戻ってきてから我々がさばき、ガルニテュール(付け合わせ)とソースを添えて、一皿に仕上げていきます。
 そうこうしているうちに、アロゼ係の子が充実感に満ちた表情で調理場に戻って来るのです。日本で言えば、中2~高1くらいでしょうか。将来、シェフとなるフランスの若者というか少年達は、たくましく、頼もしく、そして力強くて流石だなあと感心しました。我々日本人というか、少なくとも私の少年時代のような甘えが、まったくないのです。(たまにホームシックになって、泣く子もいましたが・・・。)比べて当時、既に28歳だった私は、この作業だけは「俺には、絶対無理。」と直感し、シュミネのシーズン中は、前述のとおり、全身全霊を傾けての「後方支援」に徹していました。(シェフM.T)

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ドルドーニュ川沿いに連なる石造りの家々

  
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