レシピの話

フランス地方料理を巡る旅

ヌーヴェル=アキテーヌ地方

トリュフのタルティーヌ

Tartine à la truffe

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ペリゴールの羨ましい、恐るべし?家庭料理

 ペリゴール地方といえば、トリュフの名産地としてもその名が知られています。この地方に住むと家庭料理にもトリュフが登場するのですね。日本だったら松茸?のような感覚なのでしょうか。高級食材の代表ともいえるトリュフですが、調べてみるとその昔、トリュフは貧しい人たちの食べ物だったことがことが分かりました。ジャガイモが高級品で、貴族はジャガイモを求め、農民はトリュフをジャガイモの代わりに食べていたのだとか。それは さておき、一度、豚や犬を連れてのトリュフ狩りをしてみたいものです。採れたてのトリュフの香りはどんなだろう、味はどうなのだろう、と興味は尽きません。そんなことを想像しながらこのタルティーヌを味見させていただきました。何気なく添えられたラディッシュも絶妙で、ぜひ忘れずに添えてお召し上がりいただきたいです。パリっとした食感と塩味、フレッシュなみずみずしさが、タルティーヌの美味しさをさらに引き立ててくれます。
 今回のシェフエピソードでは、シェフのトリュフへの憧れ、強い思いが伝わってきます。フランス料理を目指す人にとってやはり特別な存在なのですね。詳しくはシェフエピソードで。まずはレシピから見ていきましょう。

材料

<材料>(1人前)
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  • トリュフ : 20g
  • バター : 5g
  • パン・ド・カンパーニュ : 1枚
  • フルール・ド・セル : 適量

  • ラディッシュ : 1個
  • バター : 5g
  • フルール・ド・セル : 適量

作り方

  • トリュフを厚さ1㎜にスライスする。
  • 形にならないトリュフをアッシェ(細かく刻み)し、ポマード状(クリーム状)のバターと混ぜ、軽くアセゾネする(塩、胡椒で味を整える)。=トリュフバター
  • パン・ド・カンパーニュのトランシェ(スライス)1枚にトリュフバターをナッペ(ぬり)、トリュフを並べる。
  • タルティーヌをさっと表面だけオーブンで温め、フルール・ド・セルを散らす。
  • ラディッシュに切り込みを入れ、水に放ち、切り口を広げる。水気を切り、ポマード状のバターを詰め、フルール・ド・セルを散らす
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シェフエピソード

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トリュフの起源

  トリュフは古代ローマ人がガリア(現在のフランス)を征服したときに発見したのが、歴史の始まりだとか。しかし、ローマ時代が過ぎるとしばらく忘れられた存在となってしまいました。14世紀、フランスで再び脚光を浴びますが、広く料理に使われ始めたのは、18世紀頃からということです。そして効果は定かではありませんが、媚薬としての効能を賞賛した時代もあったとか・・・。トリュフはほぼヨーロッパでのみで生産され、中でもフランス、スペイン、イタリア の順で生産が多いようです。

 近年では、中国チベット産や少量ですが日本産も流通しています。先日、ふと見たTBSテレビの「情熱大陸」で天然食材ハンターによる国産トリュフの収穫が紹介されていました。ある所には、あるんですね。私も在仏中一度だけ「トリュフ狩り」に行きましたが、残念ながら坊主でした。フランス産トリュフと言えば、昔からペリゴールが名産地としてダントツで有名です。「トリュフとフォアグラはペリゴール。」というのが先輩から聞いていた定説でした。なので、どうしても他の地域や中国産には抵抗が・・・。

映画「大統領の料理人」とトリュフのタルティーヌ

 今回の「Tartine à la truffe」は、とてもシンプルなペリゴールならではの家庭料理です。フランス料理好きな方はご覧になった方も多いと思いますが、2012年公開のフランス映画「大統領の料理人」のワンシーンにも登場していた料理です。劇中、旬のトリュフが手に入ったと聞きつけたミッテラン大統領が、ペリゴール出身の主人公のいる厨房に下りていき、彼女が即興で作って出したのがこの「Tartine à la truffe」。そしてそれを召し上がる場面。『食べる人のために心を込めて料理をつくる』という、我々料理人が忘れてはいけない大切なフレーズを再び思い起こさせる心温まるシーンでした。それとは別にこの映画で私が感銘を受けたのが、エドワール・ニニョン(ロシアやオーストリアで宮廷料理長を務め、後に1908年に当時あまり有名でなかったパリの「レストラン・ラリュ」を買い取り、一躍伝説の有名店にしてしまったシェフ)の料理書の一説を大統領がそらんじるシーンです。フランスでの文化・教養としての料理のあり方とフランス人の「本物の食通の凄さ」を映画を通して知ることができ、とても印象に残りました。
 トリュフ.JPGのサムネイル画像▲可能ならフレッシュなトリュフを薄くスライスしたいところですが、今回はこちらを使って
 

フランスの厨房での話

 さて、トリュフのお話を。私が働いたフランスのどのレストランでも一年中、黒トリュフを使用していました。ほとんどフレッシュを使いますが、一部は、ミネラルウォーターと共に瓶詰めしておいて、ソースなどにそのジュを使ったりしていました。あるお店では、秋冬は大量にトリュフを入荷し、トリュフのフルコースメニューを用意していました。1皿目のアミューズから食後のショコラまで、すべての料理やお菓子にトリュフを使い、それはそれは贅沢なものでした。アミューズは、確か長方体のブリオッシュをトーストにし、ポッシェ(茹でる)した牛骨髄とトリュフのスライスを山盛りに盛り、フルール・ド・セルをふったものでした。今回「 Tartine à la truffe」のレストラン版みたいな感じです。何故かアミューズなのに(普通はガルドマンジェが担当)、このメニューの時だけヴィアンド(肉担当)が担当していたので記憶に残っていました。あと温前菜のフォアグラとメインのピジョン(鳩)も担当だったので、1コースで担当 3皿。大量のトリュフを扱えて楽しく、味見(つまみ食い?)も毎日。でも料理人にとっては神経をより使う特別な食材なので、精神的に少し大変でした。
 レストランでは、フレッシュトリュフが到着すると、柔らかいブラシで土を落とし、綺麗に磨き上げてから、お米や卵と共に専用の密封ケースに入れて保存します。後日、香りをまとったお米はリゾットに、卵はオムレツや「 Oeufs brouillés 」(かき卵)にとシェフ家族の食事や連泊のソワニエ(上客)用に調理します。その店では、トリュフの管理を私が任されていたので、毎朝、各ポジションからその日に使用する個数の申請がきます。予約の人数を確認し、ミザンプラス(仕込み)の組み立て状況を説明してもらってから、一つ一つ渡していました。料理によってサイズや形が違ってくるので、上手く配らないと無駄が出てしまうかもしれませんから重要な仕事です。

トリュフからの甘い誘惑

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 にもかかわらず、トリュフ担当の特権と言いますか? 本当はやってはいけないのですが・・・。日本では、まるで宝石を扱うかのように慎重に大切に使っていたトリュフを折角、本場のフランスに来ているのだからと一回だけですが、丸々1個をかじって食べてことがあります。それも2番目に大きいやつを。本当の味を知るためにはとの思い一心で・・・。2番目に大きいやつってのが罪の意識ありありですね。
 結果、感想は、「常温で1個は、キツイ。」気持ち悪くなりましたから。しばらく、何を嗅いでもトリュフの香りでした。やはり適量を適切な温度で料理として食べるのが最高だと思います。貴重な体験でしたけど、くれぐれも、これからフランスで修業される若い方は、私の真似はしないようにお願いします。本当に駄目です。

今、日本では、トリュフ風味のポテトチップスやトリュフオイル、トリュフ塩、レトルトのトリュフリゾット等々。手軽で安価にトリュフの香りを味わうことができる時代になっています。喜ばしい(私も一時期トリュフ風味のポテチにハマりました。)反面、レストランで味わう本物のトリュフのハードルが下がってしまって、食べ手も作り手も夢にまで見るような憧れの食材ではなくなってしまうのではないかという不安があります。フォアグラも同じです。普通にファミレスで食べられるのですから。ちょっと愚痴っぽくなりました。すいません。調理師学校時代、生まれて初めて同級生と行ったフランス料理店(ビストロ・ド・パリ)で食べたフォアグラとトリュフが入った鴨のテリーヌ、あの時の感動は、今も色褪せていません。やはりトリュフは、フランス料理のキュイジニエとっては、高貴な憧れの食材です。winter-truffle-203032_1280 - コピー.jpg  もう少しトリュフのお話を。同じトリュフでもイタリアの白トリュフは、今でこそポピュラーですが、私が若い頃は、日本で見たことも食べたことも、ましてや扱ったことなど一度もありませんでした。ある時、シェフがオペラのように「オーソレミヨ?」を歌いながら、ガラスケースに入った大きな白トリュフを仕込み中の調理場に持ってきたことがありました。うやうやしく蓋を開けると、あっという間に、その強烈な香りが調理場中に広がり、私も皆も目を丸くして、びっくりです。数分後、何の説明もなく、シェフが皆にウインク。また「オーソレミヨ?」を歌いながら、白トリュフを持って調理場を出て行ってしまいました。結局、仕事には使わず仕舞い。とても残念でしたが、今でも謎のシェフの行動でした。「あの白トリュフどうしたんだろう?」ちなみに「Tartine à la truffe」の横に彩のために添えたラディッシュですが、意外にもフランス人の大好物なのです。日本ではスライスしてサラダに添えたり、飾り切りにしてパーティー料理の飾りにするくらいしかしてこなかったのですが、フランスのレストランでは、バターを詰めて、フルール・ド・セルを添えて、アミューズの1品として堂々と登場します。おかわりをするお客様もいるくらいです。通常は、写真の丸い赤色ではなく、紅白の長細い形のラディッシュが主流でした。最初は、「ラディッシュとバター?」と不思議に感じていましたが、食べてみると美味しいんです。もちろん品質のよいバターを使うことが絶対条件です。フランスのバターは最高に美味しいのです。バターについてのお話は、また別のお料理の時にでも・・・。(シェフM.T)

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▲トリュフの下には刻んだトリュフを練りこんだトリュフバターが忍ばせてあります。

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