レシピの話

フランス地方料理を巡る旅

サントル=ヴァル・ド・ロワール地方

温製クロタン・ド・シャヴィニョルチーズのサラダ

Salade aux crottins de Chavignol chauds (Salade de crottins chauds )

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今回はサントル=ヴァル・ド・ロワール地方を訪れます。
イル=ド=フランスの南、フランスの中央に位置するこの地方、パリからも車で2時間ちょっとで訪れることができます。ロワール川と森が織りなす美しい景色は「フランスの庭(jardin de France)」と呼ばれ、温暖な気候や、川がもたらす肥沃な大地からは豊かな農作物が生まれます。ルネサンス様式のお城の最高傑作と言われるシャンボール城を始め、ブロワ城、シュノンソー城など、今も多くの古城が残り、ロワール川流域一帯がユネスコの世界遺産に登録されています。古城巡りなどで訪れた方も多いのではないでしょうか。ワインの産地としても有名です。りんごの菓子、タルトタタンが生まれたのもこの地方。そして山羊の飼育が盛んな地域でもあります。今回ご紹介するクロタン・ド・シャヴィニョルも山羊のチーズ。シャビニョル村とその周辺の指定地域で作られています。冷たいままでも、温めても美味しく、フレッシュでももちろん、好みに応じて熟成度合いを変え、味の変化を楽しむことも出来ます。今回のレシピは温めて頂くレシピのご紹介です。

材料

<材料>(4人前)
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  • クロタン・ド・シャヴィニョル : 4個
  • オリーブ油 : 適量
  • バゲット : 8切れ
  • タイム : 適量
  • クルミ : 適量
  • 塩・コショウ

  • サラダ(ベビーリーフ)
  • ビネグレット
  • マスタード(マイユ): 30g
  • 白ワインビネガー(マイユ): 30ml
  • オリーブオイル : 90ml
  • 塩、胡椒

作り方

  • バゲットを厚さ1㎝斜めに切り、バターを塗り、サラマンダーで軽く焼く。
  • クロタン・ド・シャビニョルを横半分に切り、1のトーストにのせ、オリーブオイルを塗る。
  • サラマンダーの遠火でクロタン・ド・シャヴィニョルを溶かすようにグラチネする。
  • クルミとタイムをのせ、サラマンダーでさっと温める。
  • 酸味の効いたビネグレットで和えたサラダを添える。
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▲辛口白ワインで名高いサンセール(Sancerre)の麓のシャビニョル村を中心に作られている。5月くらいから食べごろ。熟成の若いものは、皮は白っぽく柔らかで、軽い酸味がある。熟成が進むと、灰緑色のカビに覆われ、身も固くなる。地元の人はカビが付いたものの方を好むとか。

シェフエピソード

 いまだに鮮明に記憶しているのですが、私が初めてシェーブルチーズ(山羊乳)を食べたのは、大阪の調理師学校時代でした。フロマージュ(チーズ)の授業を受けたその日の学校帰りに勉強のためにと梅田の阪神百貨店でSaint-Maure(サン・モール)とValencay-Pyramid(ヴァランセ・ピラミッド)を割勘で買ってきて、住み込みのアルバイト先の同級生9人(お寿司屋の寮の1階に9人で1部屋住まいでした)で分けて、そのままで食べてみました。「いっせいのせい。パク。」5秒後、9人全員「うぉー!」これが、最初でした。それが今では、毎週末、我が家の夕食のテーブルには、バゲットと共にシェーブルチーズが欠かせない存在となっています。家族で食べるのは、私だけなのですが・・・。
 それでは、Crottin de Chavignol を少しご説明します。このチーズは山羊の乳で作ったいわゆるシェーブルタイプ。パリから150kmほど南下したロワール地方のシャヴィニョル村とその周辺の指定地域で作られています。クロタンとは馬や羊の落とし物(フン)の意味で、どうやらその形からきているという説とチーズの型が素焼きのランプ(Crot)に似ていることからという説があります。1976年にAOP(EU統一の原産地呼称保護)を取得しています。vineyards-5502038_1920.jpg

▲サンセール(Sancerre)のブドウ畑。美味しい辛口白ワインが生まれる。シャヴィニョル村はこのすぐそば。もちろん、サンセールの白はクロタン・ド・シャヴィニョルとの相性も抜群


さて、今回ご紹介する「Salade aux crottins de Chavignol chauds(温製クロタン・ド・シャヴィニョルサラダ:以下クロタン・ショー)」ですが、元々は、産地シャヴィニョルで、熟成を過ぎて、硬くなってしまったCrottins de Chavignol を何とか食べるため、地元の人々の知恵で、火であぶり焼きにし、柔らかくして食べていたのが始まりだとか。いつしかこの地元の食べ方がヌーベル・キュイジーヌ華やかな1980年代、「おしゃれな料理」としてパリで大流行。今では、フランス全土のカフェやビストロ、家庭でもポピュラーなチーズ料理のひとつとして食べられています。
 私もフランスでの一時期、仕事終わりに仲間達とディスコ(クラブ)に繰り出し、小一時間踊って、その帰りにバーで夜食として、このクロタン・ショーを週3で食べていました。病みつきになる料理でした。ボリュームも十分で、ビネグレットが効いた酸っぱいサラダと香ばしく焼いたチーズの相性が抜群によく、完成された、とても美味しいチーズ料理です。デパ地下で手に入る材料だけで作ることができるので、食べたことがない方は、是非、挑戦してみてください。超おすすめです。皿アップ.jpg
 渡仏前までは、フランス料理レストランに勤めていても、そんなにフロマージュ(チーズ)を日常的に食べる生活ではありませんでしたが、フランスで働き始めた初日から、ガラッと変わりました。私が働いたレストランがすべて地方のオーベルジュだったせいか、朝・昼・晩のペルソネル(賄い)の時には、必ず、フロマージュが数種類出ました。朝は、簡単に立ち食いで、その日の打ち合わせをしながら、スライスしたパンドカンパーニュを軽くトーストし、フロマージュ・ブランをナッぺして、そこにグラニュー糖をふって(たまにパティシエに行って、前日残ったショコラをもらいパンにのっけることも)、カフェオレと共に流し込むお決まりのパターン。フランスっぽいですよね。
 昼と晩は、ちゃんとペルソネル用のテーブルに座って、しっかり時間を取って、サービスのフロマージュ管理担当者が、状態が100%でないものを賄いに回してくれるものをいただく。あと週に数回、仕込み中にフロマージュ農家が納品してくれたものをシェフやスゴン(スーシェフ)と共に味見したり。と毎日のように食べていました。
 なので、日本に帰国してシェフになってからも、しばらく、その習慣が抜けず、ペルソネルがパン食の時(あたりまえですが、フランスでは毎日パン食。日本では和洋中様々なので、ご飯だったりパンだったりします。)は、自腹でフロマージュを購入して、スタッフと共に食べていました。ほとんど私だけが食べていましたけど・・・。
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▲オルレアン(Orléan)を流れるロワール川。オルレアンはサントル=ヴァル=ド・ロワール地方の中心都市。1429年ジャンヌ=ダルクが英国兵に包囲されていたオルレアンを救ったことでも知られる。毎年5月にジャンヌ=ダルク祭が行われる。


最後にロワール地方での思い出を少しだけ。私は、フランスで職場を移る時に、必ず数日バカンスを取るようにしていました。レストランと料理以外のフランス文化に触れるための貴重な時間です。ちょうどPays de la Loireの北部にある鶏で有名なLoué(ルエ)で働き終えた時に、「ロワール古城巡り」と「レストラン食べ歩き」に出かけました。まず、もと同僚が働いている、当時二つ星「ベルナール・ロバン(Bernard Robin)」を訪ねました。シェフ自ら丁寧に調理場を案内してくれて、尚且つ、お店の寮に泊まっていきなさいと嬉しいお言葉を。当時、常に金欠状態の私には本当にありがたかった。フランスのシェフ達は、仕事には厳しいですが、それ以外は、皆さん優しく親切な方が多いのです。
 これも何十年も前からフランスという遠い国で、数々の困難に会いながらも、死に物狂いで仕事をして、シェフの信頼を得てきた日本人料理人の諸先輩方のおかげです。そのベースがあるからこそ、何の伝手もなかった私も彼の地で働くことができました。感謝です。
 シェフの運転で「君にどうしても見せたい場所がある。」とドライブに誘われました。辺りは暗くなり始めています。しばらく走っていると、ライトアップされた絢爛豪華なシャンボール城が現れました。「オー!シャンボール!」友人とシェフが同時に台詞のように声を発します。続いて私、「すっげー!」。真似して「オー!シャンボール!」。劇場映画の大スクリーンで見ているような非現実的な光景です。幻想的と言うか、どう表現したらよいのか・・・、ボキャブラリーが足りませんね。すいません。とにかく感動です。

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▲シャンボール城はロワール川沿いにあるお城の中でも最大。フランス国王フランソワ1世のために建てられた。


chambord-887685_1920.jpg▲この城のお客として訪れていたレオナルド・ダ・ヴィンチも設計に関わってたと言われている。


chambord-4729984_1920.jpg▲シャンボール城のすぐ隣りをロワール川が流れ、森が広がる。


 以前、お店のスタッフ総出で、このシャンボール城の宴会場で何百人ものコース料理を作ったとシェフがお話してくれました。帰り際、「うちで働かないか?」とありがたいお誘いを受けましたが、既に次の職場が決まってしまっていると伝えると、「Bonne chance!(ボンシャンス!そこが終わったら電話しなさい。」とお店のパンフレットを頂きました。ありがたい出来事でした。翌日、友人に駅まで送ってもらい、楽しみにしていたレストランがあるTours(トゥール)へ向かいます。続きは次の「レシピの話」で。

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