レシピの話

フランス地方料理を巡る旅

サントル=ヴァル・ド・ロワール地方

豚フィレ肉 トゥールのドライプルーン(プラム)添え 

Mignon de porc aux pruneaux de Tours

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前回に続きサントル・ヴァル・ド・ロワール地方のレシピをご紹介します。豚肉とプルーン(プラム)を使っています。この地方、お城やジャンヌ=ダルクなどの印象が強いのですが、色いろな産物にも恵まれておりトゥールのプルーンもその一つ。ロワール川沿いに沢山のプルーンの木が植えられ、美食家たちに古くから愛されてきました。さて、レシピに入る前に、この地方の名前にもなっているロワール川について少しご紹介を。

フランスで一番長い川
フランスを旅していると、あれ?またロワール川?、といろんな地方でロワール川に遭遇します。地図で源泉をたどると、リヨンの南、サンテチエンヌやヴァランスよりも南の中央高地にたどり着きます。標高約1400メートルの地点から湧き出た水がオーヴェルニュ=ローヌ=アルプ地方、ブルゴーニュ地方、サントル=ヴァル・ド・ロワール地方のオルレアンやトゥールを抜け、最後にペイ・ド・ラ・ロワール地方のナントを通り大西洋に注ぎ込みます。その全長1020km!日本最長の信濃川が367㎞で、東京から下関までドライブすると約1000㎞...と考えるとイメージが湧いてきます。ロワール川が流れる4つの地方と12の県の旅なんていうのも良いかも?しれません。
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美食の宝庫 サントル=ヴァル=ド=ロワール地方
今回のレシピの舞台、サントル=ヴァル=ド=ロワール地方についても少しご紹介を。この地方はロワール川を中心に発展してきました。穏やかな気候に加え、ソローニュの森では鹿やイノシシなどのジビエ、風味豊かなキノコ。ロワールの大河にはウナギやカワカマスといった川魚、肥沃な平野には野菜、果物、チーズ、そしてロワール流域の広大なぶどう畑からは甘口、辛口、あらゆるワインが造られる美食の宝庫なのです。大食漢の物語として有名な「ガルガンチュア物語」もロワールが生んだ文豪ラブレーの名作。秋の長夜に昔の食いしん坊に思いを馳せながら文学に浸るのはいかがでしょうか。
chambord-977702_1920.jpg お待たせしました。ではトゥールの特産品の一つであるプルーンを使ったレシピ「豚フィレ肉 トゥールのプラム添え」のレシピにまいりましょう。

材料

<材料>(6人前)
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  • 豚フィレ肉 : 640g
  • にんにく : 2片
  • タイム : 適量
  • バター : 適量
  • ドライプルーン(プラム) : 16粒
  • 赤ワイン(トゥーレーヌ) : 375ml
  • 生クリーム : 20ml

  • バター : 10g
  • 赤ワインビネガー(マイユ) : 適量
  • レモン汁 : 適量

  • オレンジ : 1個
  • 砂糖 : 20g

  • ジャガイモ : 350g
  • 牛乳 : 50ml
  • 生クリーム : 50ml
  • バター : 50g

  • 塩・胡椒

作り方

  • プルーンを赤ワインで真空パックし、一晩マリネする。
  • 豚フィレ肉を40gのメダイヨン(輪切り)に切る。(一人前4切れ)
  • 肉にアセゾネ(塩・胡椒)し、にんにく、タイムと共に中火でバターソテーする。フライパンに入れたまま休ませる。
  • 肉を取り出し温かいところに取り置く。フライパンの余分な油を取り除き、プルーンを漬けたマリナード液を加えてデグラセする(のばす)。
  • 生クリームを加え、煮詰める。バターでモンテする。アセゾネを整え、パッセ(漉し)、ソースをつくる。プルーンをフライパンに戻す。

  • ジャガイモのムースリーヌ
  • ジャガイモを皮付きでスチコンで加熱する。(スチームモード・100%・100℃・30分・風量4)
  • 皮をむき、ムーラン(粉砕機)にかけ、乳製品を加えてアセゾネする。滑らかなムースリーヌ(ポテトピュレ)にする。
  • オレンジゼストのコンフィ
  • オレンジの皮をジュリエンヌ(千切り)に切り、お湯で一度さっとブランシールする(茹でる)。
  • オレンジジュースと砂糖を加え、全体を混ぜながら水気がなくなるまで煮詰める。(ゼストに艶が出るくらいまで)

  • 盛り付け
  • 保温しておいた豚フィレ肉にオレンジゼストのコンフィとタイムの小枝をのせ、皿に盛り付ける。
  • ジャガイモのムースリーヌとプルーンを添え、ソースをかける。

シェフエピソード

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トゥールの由来
ロワール川中流域に広がる美しい景観と非常に豊かな土地に恵まれた地域。その中心都市が「Tours(トゥール)」です。周辺にいくつもお城が建てられ、そのシンボルの塔(tour/トゥール)が多くあったことから、この地名になったと言われています。古くから文化が栄えていたことから、昔ながらの郷土料理も色々あります。代表的なのが、「Rillettes de porc(豚肉のリエット)」や「Callion(豚のラード煮)」で、共に保存を目的とした豚肉料理です。

france-3895890_1920.jpg プルーンはトゥールの名産品
今回の「Mignon de porc aux pruneaux de Tours」も豊かな大地で育った豚とToursの名産品ドライプルーンを組み合わせた伝統料理の逸品です。トゥールに限らず、とにかくフランス人はこの組み合わせが大好きです。家庭料理のレシピ本や雑誌には必ず載っているほどの、言わば国民食的な存在です。日本で言ったら「豚の生姜焼き」でしょうか。レストランでのペルソネル(賄い)にも度々、登場します。最初は、甘いかなと思いましたが、食べ慣れてくると豚の味とプルーンの果実特有のコクと甘みのバランスがなかなかどうして、美味しいんです。今は、生産量が少なくなってしまった「トゥールのプルーン」ですが、昔は、ロワール川沿いに多くのプラムの木が植えられ、15世紀頃にはフランス全土に知られる名産品となっていたそうです。その後、ドライプルーンとなりお菓子も製造され、「Pruneaux de Tours」がブランドとして確立しました。

忘れられない豚の解体
豚肉と言えば以前、寒い寒い真冬のブルゴーニュで、豚一頭の解体に参加したことがありました。お店が休日の早朝、シェフに呼び出されて、とある農家の大きなお屋敷にベンツで連れて行かれました。「ドン」大きな爆発音です。車から降りると、中庭ではブルドーザーにくくられた大きな豚が逆さまに吊り上げられようとしています。眉間の穴から煙が・・・。シュールな光景です・・・。
おもむろにクトー(ナイフ)を持ったシャルキュティエ(豚肉加工業者)のおじさんが登場し、解体がスタート。周りには作業に参加するのであろう人々が集まってきました。私も腕まくりするように言われ、大きなバケツを持たされます。何をさせられるのか?・・・・。不安いっぱいです。
 そうこうしているうちに解体はどんどん進んでいきます。私のバケツにも大量の血が注がれ、「腕をつっこんでかき混ぜなさい。」と隣にいたおばあさんに指示されます。血の温度を感じながら、凝固しないようにかき混ぜます。「あったけー!」。隣のおじいさんは、腸をしごいて洗っています。もも肉が外され、お屋敷内に運ばれていきます。塩漬けされるようです。「おいで」綺麗なおばさんに呼ばれ、血入りのバケツを調理場へ。寒い外に比べたら屋内は天国です。

最高のブーダン・ノワール
シュミネー(暖炉)も焚かれ、調理場は水蒸気が立ち込めています。ここで「Boudin noir/ブーダン・ノワール」(血入りソーセージ)の仕込みが行われているようです。あまりの寒さに体が震えていた私におばさん達が温かい野菜スープを出してくれました。皆さん優しい人ばかりです。田舎の人たちは、東洋人である私にも親切に接してくれました。もちろん「地元の有名レストランで働いている料理人」という信用が大きいと思いますが、それを差し引いても、その「優しさ」と「親切」が当時の私には本当にありがたかった。 体も温まり、作業に復帰、おばさん達と腸に詰めたブーダンをグルグルとぐろ巻きにして、お湯で茹でます。茹で上がったら、外で作業していたおじさん達を呼んで、テーブルを囲み焼いたブーダンと林檎のバターソテーとジャガイモのピューレを盛った豪華なお皿とバゲットと赤ワインで宴会です。作り立てのブーダンを初めて食べましたが、シチュエーションもあいまってか本当に美味しく強烈に記憶に残っています。あと、私はブーダンをそのままナイフ・フォークで食べていましたが、周りの人を見ると、ブーダンに切込みを入れて、中身だけを取り出して、バゲットにのっけて食べている人が多くいましたので、すぐ真似して、食べ方を変えました。「これも美味い!」。飲めや唄えの楽しい宴会は、夕方まで続きました。とても充実した休日でした。
日本に帰国して、シェフになりたてのころ、この「Boudin noir/ブーダン・ノワール」をよくアミューズでお客様にお出ししていました。一口サイズにカットしてから切り口の両面をさっと焼いて、りんごの軽めのコンフィチュールを上にナッぺしたものです。食いしん坊のお客様からは、アミューズなのにアンコールをいただくほどでしたが、若いお嬢様方にはあまり・・・。

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トゥールの話
ここからトゥールのお話を。我々の時代、フランスでの修業を始める前にトゥールで語学学校に通う日本人キュイジニエやパティシエが多くいました。私の友人達もここでフランス語を学んでからフランス各地での修行をスタートしました。かたや私は、日本での十分な準備期間も資金もコネもなくフランスに行ってしまったので、当然、学校には通えず、直にレストランの現場に入りました。結構、それでいけちゃうんです。でも、これからフランスに修行に行く方には、しっかりとした準備をおすすめします。安全第一です。
 さて、旅のお話の続きです。トゥールに入る前にブロワ城に寄りました。ロワール河畔の高台にあるブロワ城は、中世都市ブロワにたたずむお城です。
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▲フランソワ1世の翼(建物)で、建築や装飾にイタリアの影響が見られる。中央の美しい装飾の八角形の螺旋階段は、ルネサンス様式の傑作と称されているそう。


シャンパーニュ地方のページでも書いた、あのジャンヌ・ダルクとも縁のある場所です。1429年にジャンヌが、イギリスへ向け軍を出発させる前に、ランス大司教から祝福を受けたのが、このブロワ城でした。また、フランス王ルイ12世からアンリ4世まで、宮廷をパリに移すまでの約100年間、王様の第1城としても愛された城です。思うがままにゆっくり1日かけて見学しました。壮大ではないけれど、気品溢れる美しいお城でした。
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▲ブロワ城にはいくつかの翼(建物)がありますが、こちらはルイ12世王の翼。赤いレンガと灰色の石で造られています。入口上部の王の騎馬像の彫刻は必見。


ブロワから移動し、トゥール駅近くに安宿を取り、明日からの「レストラン食べ歩き」のために体調を整えます。目指すはトゥールの両巨塔、「Charles Barrier / シャルル・バリエ」と「Jean Bardet / ジャン・バルデ」の2軒です。
続きは、次回の「Pays de la Loire」のページで・・・。
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