レシピの話

フランス地方料理を巡る旅

ノルマンデイー地方

舌平目のノルマンディー風

Filet de sole à la normannde

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 ノルマンディー地方を訪れます。  パリから北西へ70~80㎞、車で一時間も走ると、のどかな田園風景がどこまでも続くノルマンディー地方の入口に到着です。なだらかな丘陵の緑の中にポツンと建つ太い木骨の梁に支えられた漆喰づくりの農家、その脇に真っ赤な実を付けたりんごの木、牛や羊が草を食む牧草地・・・そんな牧歌的な風景が広がります。building-g31e6c902d_1920.jpgfield-g37b6cfeb8_1920.jpg  イギリス海峡に面した海岸線は美しい景観に恵まれ、象のようにも見える『エトルタ』の断崖もこの地方の見所の一つ。france-gd0bbdfbdd_1920.jpg印象派が生まれたのもここノルマンディー地方。モネをはじめとする印象派の画家たちがノルマンディーの美しい風景を数多く描きました。mont-saint-michel-g271d6be5e_1920.jpg

モン・サン=ミッシェルはブルターニュ地方との境界にほど近いサン・マロ湾の一角に位置し、1979年にはユネスコの世界遺産に登録されている。もとは先住民ケルト人が信仰する聖地であった岩山に建てられた。その歴史は古く708年まで遡る。夢で聖ミカエルのお告げ(この地に聖堂を立てよ)を受けたオベール司教が礼拝堂を建てたのが始まり。時代を経て大きく増築され、今の姿に。中世よりカトリックの聖地として巡礼地となっている。

 そんなノルマンディーから地方料理『舌平目のノルマンディー風』をご紹介いたします。舌平目と聞くと、高級フランス料理のイメージがありますが、ここはノルマンディー。田舎らしさと家庭料理の温かみのある一品です。魚介と生クリーム、シードルなど地方の恵みがギュッと詰まった一皿。ぜひ挑戦してみてください。

材料

<材料>(2人前)
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  • 舌平目: 1尾
  • ムール貝(むき身): 200g
  • 海老 : 4尾
  • エシャロット: 1個
  • シャンピニヨン・ド・パリ(マッシュルーム): 100g
  • シードル:300ml
  • 生クリーム: 200ml
  • フュメ・ド・ソール※1: 200ml
  • パセリ(アシェ※2: 適量
  • レモン汁: 適量
  • 白ワインビネガー(マイユ):適量
  • バター: 50g
  • 塩・胡椒: 適量

  • ジャガイモ: 200g

<フランス料理用語注釈>

※1・・・フュメ・ド・ソール(fumé de sole)舌平目のアラと香味野菜などからとった白い出し汁のこと。
※2・・・アシェ(haché) 細かく刻んだもの
※3・・・ブーレ(beurré)バターを塗る
※4・・・アセゾネ(assaisonner)調味する
※5・・・モンテ(monter)~を加えて仕上げる

作り方

  • ココット鍋の内側にブーレ※3し、アセゾネ※4した舌平目のフィレを入れ。エシャロットをふり入れる。
  • シードルを注ぎ入れ、火にかける。漉し、シャンピニヨンを入れ、蓋をして、火入れする。
  • 途中、海老、ムール貝を入れ、火入れする。魚介類に火が入ったら、取り出して、保温する。
  • 煮汁に舌平目のアラと海老頭でとったフュメを入れ、煮詰める。生クリームを加え、煮詰める。
  • 濃度がついたら、バターでモンテ※5する。レモン汁、白ワインビネガー(又はどちらか一方)と塩・胡椒で味を調える。
  • パセリを加え、ソースに仕上げる。
  • 少し煮詰め、味を調える。
  • ジャガイモは4cmのオリーブ形に面取りし、バターでゆっくりソテーしながら火を入れ、パセリをからめ、ジャガイモのココット風を作る。
  • (盛り付け)お皿に魚介、ジャガイモのココット風を盛り付け、ソースをかける。

シェフエピソード

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私が「ノルマンディー」と聞いて、まず思い出すのが、1993年にリリースされた Patricia Kaas (パトリシア・カース/フランスのベテラン人気女性歌手)の「Hôtel Normandy(オテル・ノルマンディ)」という曲です。知っている方は、なかなかの渋いフランス通?かもしれません。今でもたまに口ずさみます。

私がフランスで過ごした3年間、どの地方にいても、よく仲間たちと彼女の曲を歌ったものです。その他に「Mademoiselle chante le blues」や「Il me dit que je suis belle」も寮までの帰り道、田舎の街灯もない真っ暗な農道(牛がきれいに並んで寝ている横の)で満天の星空の下、懐中電灯を持ちながら、皆とよく大合唱していました。太い声で・・・。
 さて、ノルマンディーのお料理です。今回は、「Filet de sole à la normannde」。ノルマンディー地方を代表する魚介料理です。イギリスとの国境ドーバー海峡では、それはそれは立派な舌平目があがります。日本で流通しているものと比べるとだいぶ肉厚でしっかりとした魚体の高級食材です。どうやらこの舌平目、普通の舌平目とは、生物学的に「科」が違い、もともと別の種類だそうです。納得・・・。予算の都合上、今回は国産です。ドーバーの舌平目は、目が飛び出る程の高級品なのです。
harbor-g72dcf3e11_1920.jpgオンフルールの港。港沿いにはカフェやビストロが並ぶ。絵になる景色が楽しめる。

 舌平目のお話をもう少し。「Sole à la meunière(舌平目のムニエル)」はその昔、我々日本人にとってフランス料理を代表する魚料理でした。中学、高校のテーブル・マナー教室等でトライした方もいるのではないでしょうか。幼少期、我が家ではお料理上手の母が「舌平目のムニエル 醤油バターソース」をよく作ってくれました。ご飯のおかずになるようにスペシャルな味付けでした。美味しかったなあ。
姿のまま調理する舌平目料理は、私が日本でフランス料理の仕事を始めた頃にはもうレストランのグランドメニューには、あまり載っていなかったと記憶しています。時代的には「Paupiette de sole(舌平目のポーピエット)」等のムースや野菜を舌平目のフィレで巻き込んだ料理がポピュラーになっていたと思います。
 しかし、フランスで働いたレストランでは、さすがにグランドメニューには載っていなかったものの、連泊のお客様(オーベルジュの)の特別注文やシェフの市場の買い出し状況(シェフによっては、けっこうな頻度でメニュー以外の食材も仕入れてきます。)などで、よい舌平目が入荷されたときに何回か作ったことがあります。日本ではあまり見たこともない大きなグラタン皿でたっぷりのバターだけ(日本だとバターは高価なので、サラダ油と半々で使ったりします。)でじっくりムニエルしていきます。肉料理と違い魚料理はキュイした後、クッペ(切ったり)したりしないので残念ながら味見(確認)ができません。調理中に漂う香りと魚の焼き色、表面の弾力で判断しながら調理していきます。焼き上がったら、後はメートル・ドテルにお任せです。「Sauce beurre noisette(焦がしバターソース)」も彼がお客様の目の前で作ってくれます。レストランならではのクラシックで本当に美味しい料理です。
 舌平目料理のお話をもう少し。舌平目料理の中で世界的に最も有名なものは、やはりマキシムの「Soles Albert(ソール・アルベール)」ではないでしょうか。第一次世界大戦後の伝説のメートル・ドテル「アルベール・ブラゼ」の名を冠したマキシム・ド・パリの名物料理です。彼は卓越した記憶力の持ち主で、貴族、大富豪、社交界の有名人等の数えきれない顧客の名前を正確に覚えていたそうです。アルベールに自身の名前を呼ばれて、レストランに迎えられる上流階級の人たちは、「これで私も一流の仲間入りだと。」自尊心を大変満足させたとか・・・。私も若い頃に一度だけ食事をした日本の「銀座マキシム・ド・パリ」は、残念ながらもうなくなってしまったので、正統なこの「Soles Albert」が食べられるレストランは、都内にあと数軒となってしまいました。チャンスがあったら是非、皆さんも調べて召し上がってみてください。きっと感動するはずです。
 さあ、「舌平目のノルマンディー風」に戻ります。下処理をした舌平目を一匹丸のままかフィレにして、豊かな大地の恵みのバター、生クリームそしてノルマンディーならではのシードルで仕上げていきます。ソースの煮詰め具合でコテコテ濃厚にもできますが、今回は、「さっと煮」感覚で軽めに仕上げてみました。私が働いたレストランでは、同じような調理法で厚めに切った平目のフィレを使い、シードルではなく「Noilly(ノイリー酒)」を加えて調理し、仕上げにバターは使わずに泡立てた生クリームを少量加え、ハンドミキサーで泡々にしたソースを添えた現代的な料理を出していました。shellfish-g8f809a606_1920.jpg
 撮影時、フレッシュなムール貝が手に入らなかったので、むき身の冷凍品を使いましたが、本来はムール貝の出しも加わってより味わい深い料理になります。ムール貝といえば、フランス人は「Moules-frites」(蒸したムール貝とフリット)として食べることが大好きです。食べたことがある方は、「何でこの組み合わせなの?」と思いませんでしたか?私は、初めて地方のブラッスリーでこの「Moules-frites」が目の前に運ばれてきた時、まずその量にびっくり。そしてその組み合わせの不思議さにびっくりでした。貝殻をキュイエール代わりにしてムールの身をスープと共にすくいとって食べてみると、タイムとバターの香りと白ワインの酸味、ムールの出しの味わいがパーと口に広がり、ムールに付いたエシャロットのシャリシャリの歯ざわりが心地よく、おしゃれな感覚の料理でした。なぜか子供のころ江の島の海水浴場で食べた「サザエのつぼ焼き」をふと思い出しました・・・。でもシチュエーションがあまりにも違い過ぎますね。すいません。ちなみにノルマンディーでは、この「Moules-frites」には、生クリームを加えます。french-fried-ga93848da4_1920.jpg
 最初は、不思議に思っていた組み合わせでしたが、食べ進んでいくと、ムールの味と「Pommes-frites(ポテトフライ)」がなかなか合うのが解ってきました。ギャルソンに聞いてみると、どうやらこの組み合わせ、ベルギーが発祥のようです。そういえば牛ステーキのガルニチュールも「Pommes-frites」山盛りが定番だったなあ。それもギャルソン聞いてみると、「それはフランス!」と言われてしまいました。なるほど「フレンチポテト」ですものね。(シェフM.T)

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