レシピの話

フランス地方料理を巡る旅

ノルマンデイー地方

若鶏のオージュ谷風

Poulet Vallée d'Auge

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 寒い季節には生クリームたっぷりのお料理が恋しくなります。今月は若鶏のオージュ谷風をご紹介します。 これぞノルマンディーという一皿です。ノルマンディーの恵み、りんご、シードル、カルヴァドス、生クリームを使用しています。
りんごの程良い甘みと酸味がたまりません。ノルマンディーの海や田園風景を思い浮かべながらぜひお楽しみください。 合わせるならやはりシードルがお薦めです。  
ちなみにオージュの谷で収穫されるりんごから作る有名なカルヴァドスとシードルを使った料理を「オージュ谷風」と呼びます。  

材料(2~4人分)

<材料>(6人前)
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  • 鶏 : 1羽
  • サラダ油 : 適量
  • バター : 70g
  • エシャロット(アッシェ ※1) : 2個分
  • マッシュルーム(エマンセ ※2): 100g
  • カルヴァドス : 100ml
  • シードル : 300ml
  • 生クリーム : 200ml
  • ブーケガルニ : 1個
  • リンゴ : 3個(1個はエマンセ※2、2個は半切り)
  • レモン(またはヴィネガー(マイユ)) : 適量
  • パセリ : 適量
  • 塩・胡椒 : 適量

<フランス料理用語注釈>

※1・・・・・・アシェ(hacher) 細かく刻む
※2・・・・・・エマンセ(émincer)薄くスライスする
※3・・・・・・フィセル(ficelle)肉を焼くときに形が崩れないよう肉の周囲に紐を巻くこと
※4・・・・・・アセゾネ(assaisonner)調味する、(塩、コショウの他に色々な種類の香辛料を用いて料理本来の)味を引き立たせる
※5・・・・・・バターモンテする(monter au beurre)バターを少量ずつ加えてなめからな舌触りと輝きのあるものに仕上げる

作り方

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  • 鶏をフィセル※3し、アセゾネ※4し、全体にバターを塗る。
  • ココット鍋にサラダ油を適量たらし、鶏を入れ、蓋をせずにスチームコンベクションオーブン(スチコン)で加熱する。
    (蓋なしで)コンビモード 蒸気量80% 温度200℃ 加熱時間20分 風量4 
    ※普通のオーブンでも同様
  • 2をスチコンから取り出し、バター、エシャロット、シャンピニヨン、りんごのエマンセを加え再びスチコンで加熱する。
  • (蓋をして)コンビモード 蒸気量80% 温度200℃ 加熱時間15分 風量4 
    ※普通のオーブンでも同様
  • 3をスチコンから取り出し、プラック(又は直火)に移し、カルヴァドスでフランベする。ブーケガルニを加える。
  • ココットにシードルを加え、アルコール分を飛ばし、煮詰める。途中で鶏を取り出し、休ませる。切り分ける。
  • 1/2まで煮詰まったら、生クリームを加えてさらに煮詰め、濃度がついたら、バターモンテ※5する。
  • フライパンで1/2のりんごをバター(分量外)でソーテーしてじっくり火を入れる。
  • 7のソースをレモン汁(又はビネガー)、塩・コショウでアセゾネする。鶏を戻し、ひと煮立ちさせる。パセリを加えて仕上げる。
  • ココットのままか大皿に盛り、一人前ずつお皿に取り分ける。

シェフエピソード

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▲ノルマンディ地方らしい木骨の家。木骨の梁と漆喰の建物は「コロンバージュ」と呼ばれる


 ノルマンディー地方といえば「りんご」。そして、それから作られるお酒「シードル(りんごの発砲酒)」と「カルヴァドス(りんごの蒸留酒)」が名産品として有名です。あまりぶどうの栽培に適さない土地だったらしく、昔からワイン造りではなく、りんごを原材料とするお酒が造られていました。特にカルヴァドスは、コニャック、アルマニャックと共にフランス三大蒸留酒に数えられています。今回は、このカルヴァドスの名産地オージュ谷の郷土料理「Poulet Vallée d'Auge(プーレ・ヴァレ・ドージュ/若鶏のオージュ谷風)」をご紹介します。IMG_8751.JPG
 と言っても実は私、ノルマンディー地方に行ったのは数時間だけでして、目的もこの料理ではなく、「Trip à la mode de Caen(牛胃のカーン風煮込み)」を食べるためだけの日帰り弾丸ツアーでした。観光もなしです。日本で食べてもあまり感動しないというか、得意ではなかったこの料理が、本場で本物を食べれば印象が必ず変わるだろうとの期待を込めた行動でした。結果、「・・・。」やっぱり得意にはなれませんでした。好き嫌いはいけませんね・・・。焼肉屋さんに行っても、いまだにホルモンの一部が不得意です。でも居酒屋さんのモツ煮は美味しくいただけるのです。わがままなんですかね!
 さて、ノルマンディーの代表的な料理「 Poulet Vallée d'Auge 」ですが、調理法としては、Braiser(ブレゼ/蒸し煮)が一般的です。が今回ご紹介する方法は、私がペイ・ド・ラ・ロワール地方のレストランで働いている時にシェフのお母様に教えていただいたやり方でRôtir(ロティ/ロースト)からスタートする方法です。変化球的ですが、さっぱりとした料理に仕上がります。
ペイ・ド・ラ・ロワール地方のお話になってしまいますが、料理はノルマンディー地方の料理なのであしからず・・・。
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@toyotagazooracing.com 
まずは背景から。世界的な自動車レース「ル・マン24時間耐久レース」を1923年から開催してきた「 Le Mans(ル・マン)」は、フランスの西部ロワール地方に位置する都市で、サルト県の県庁所在地でもあります。昔の名作ですが、1971年 スティーブ・マックイーン主演のアメリカ映画「栄光のル・マン」をご覧になった方は地名だけでも記憶にあるのでは。この映画、何と言っても、マックイーンが超渋いんです。が、私的には、「ブリット」の方が印象深いんです。フォード・ムスタングのスタイリングとジャクリーヌ・ビセットの美しさに、子供ながらにドキドキしたのを憶えています。ジャクリーヌ・ビセットといえば、料理好きなら誰もが観たと思いますが、1978年公開、アメリカ、フランス、イタリア、西ドイツ合作、コメディーサスペンス「料理長殿、ご用心」が思い出されます。シェフ・パティシエ「ナターシャ」役を演じたジャクリーヌのコックコート姿がとても素敵でした。何と料理監修は故ポール・ボキューズ氏が務め、当時の名店「ル・プレ・キャトラン」「トゥールダルジャン」「ラ・ベルーズ」も撮影場所として登場します。監督は「ランボー」のテッド・コッチェフ氏でした。脱線しました。すいません。戻ります。
そのル・マンから東へ30km。バスで1時間弱(朝1便、夕方1便のみ(当時は))の所に、赤ラベル(農産物食品商標規定)の家禽ではフランスでもっとも有名な「ルエ鶏」の産地「Loué(ルエ)」という小さな村と言うか街があります。Screenshot 2022-01-27 at 17-26-43 Bien-être animal.png

@Louéのサイト class="button">https://www.loue.fr/article/Bien-%c3%aatre-animal/a160.aspx

 小さな教会を中心に、ブーランジェリー(パン屋)1軒、バー(Bar)1軒、タバコ屋1軒、大工道具屋1軒、ビストロ1軒、小さなスーパー1軒、丘を上がったところに大きなスーパー1軒と生活するには十分な施設が揃った町でした。
 19世紀初頭に「美味礼讃」の著者ブリア・サヴァラン(法律家、政治家、美食批評家。「あなたが普段から食べているものを教えて欲しい。あなたがどんな人であるか、当ててみせよう。」とか「チーズが無いデザートは、片目を失っている美女も同然である」等の言葉でも有名。)が「フランスでは三つの地方が最良の飼鳥類の産地として名誉を争っていた。ペイ・ド・コー、ル・マン、ブレスがそれである。」と書いているように昔からル・マン周辺の地鶏は評価が高かったようです。
 このルエに歴史ある立派なホテル・レストランがあり、在仏1年目の後半からそこで働いていました。今回の料理はそのお店のマダム(シェフの母親)から直々に教わったノルマンディー地方の家庭料理です。
 あまり忙しくない、ある日、何の前ぶれもなく、真っ赤なエプロンを付けた大柄で金髪のマダムが調理場に登場。迫力満点です。「今日は、鶏ね。」と笑顔のマダム。彼女には、在籍中にこの鶏以外にもラタトゥイユやエクルビスのグラタン、卵料理等、何品もの家庭料理を教えて頂きました。貴重な経験でした。ただいつもマダムのタイミングなので、「え!これからー?」という時も度々あり、休憩時間を潰して教わることも・・・。
 マダムの指示で、材料を用意し一緒に準備をしていきます。最初に丸鶏(もちろんルエ鶏)を形よく縛り、アセゾネしてブーレしてココット鍋に入れてオーブンで焼き始めます。次に野菜の下処理。マダムは、まな板をほぼ使いません。器用にペティナイフ片手にエシャロットとシャンピニヨンをスライスしていきます。レストランのプロの仕事以外は、大体のフランス人はこうです。私の知る限りではです。(フランスの一部とスペインの一部しか知りませんので・・・。)結構、細かい作業もこれで、できちゃうんです。作業している姿も中々いいんです。野菜もココットに入れ、鶏をアロゼして、再び火を入れていきます。ここでマダムが「りんごある? カルヴァドスある? シードルある?」と矢継ぎ早に注文です。「あれー!プーレ・ロティじゃないの?」と私。もちろん心の中での声。てっきり鶏の丸焼きを教えてくれているもんだと思い込んでいましたが、どうやら違うようです。マダムの指示で、りんごを半分に切って、バターで焼き始めます。美味しそうないい香りが漂ってきました。そろそろ鶏が焼きあがる時間です。ココットをオーブンから出し、たっぷりのカルヴァドスでフランベし、シードルを注ぎ入れて煮詰め、鶏を取り出し、クレメしてソースを仕上げて、鶏を戻して完成です。「これが私のPoulet Vallée d'Augeよ。」とマダム。 ここでやっと料理名を教えてくれました。初めて聞く料理名でした。これぞ「母の味」。というか、フランス料理的なネーミングだと「 Grand-Mère (おばあちゃんの味)」という感じです。rouen-g4e6b180c1_1920.jpg

▲ノルマンディ地方の都市として有名なルーアンの古い町並み。ジャンヌ・ダルクの最期の地としても有名。
 middle-ages-gdb93c6e0a_1920.jpg▲こちらも旧市街。街の中央を流れるセーヌ河は、河口にも近く、多くの鴨が飛来することからルーアンは鴨の産地としても名を馳せている。窒息鴨を使った「仔鴨のルーアン風」は美味。

 フランス人に教わる地方料理や家庭料理の中には、調理法の原点的な作業が残っていて、基本から学ばなければいけない我々外国人にとっては、とても勉強になるのです。
 レストランの料理は提供時間の問題もあるので、メニューに書いている調理法だけではなく、複数の調理法を組み合わせて調理していくことが多々あります。それぞれのシェフが、自分のイメージした料理を様々な調理法や調理機器や器具を組み合わせて作り上げていくのです。その中で、新しい調理法や調理機器が生み出されることもあります。そうしてフランス料理は、日々どんどん進化していきます。

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