レシピの話

フランス地方料理を巡る旅

オー=ド=フランス地方

フィセル・ピカルド ~ ピカルディ風クレープグラタン ~ (1)『レシピの話』

Ficelle picarde

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 今月は北フランスのオー=ド=フランス地方(Hauts-de-France)を訪れます。ピカルディー地方、ノール=パ=ド=カレ地方が一つになり、この地方名になりました。ベルギーと国境を接し、ドーヴァー海峡を挟んだお向かいはイギリス。ヨーロッパの重要な交通路に位置し、商業の要所として栄えてきました。1994年には英仏海峡トンネルが完成し、さらにTGV(新幹線)やユーロスターも通るようになり、イギリス、パリ、ベルギーへのアクセスも各段にUPしました。この英仏海峡トンネル、50kmもあるのですが、驚くべきは完成までに200年も要したこと。悲願の完成だったのですね。重要な輸送路としての役割を果たしているのですが、とても渋滞するのが悩みだそう。それはさておき、中世にはフランドルと呼ばれ、現在のオランダ、ベルキー、フランスの一部からなる、毛織物や金属細工でヨーロッパを代表する先進発展地域としても栄えました。今もその歴史的面影が残ります。

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▲北フランス最大の工業都市Lille(リール)の街並み。ユーロスターの発着駅でもあり、EUの交通の要所を担う

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▲熱々にグラチネされたフィセル・ピカルド。シンプルな料理ですがベシャメルソースと絡んだクレープとハム、キノコは絶品

~ 第1章 ~
 フィセル・ピカルドのレシピの話

材料

<材料>4人前
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  • (クレープ生地)
  • 全卵: 1個
  • 砂糖: 5g
  • 薄力粉: 40g
  • 牛乳: 125ml
  • バター: 30g

  • (ソースベシャメル)
  • バター: 40g
  • 薄力粉: 40g
  • 牛乳: 500ml
  • 生クリーム(47%): 150ml

  • (ファルス)
  • バター: 30g
  • タマネギ(アシェ/みじん切り): 80g
  • マッシュルーム(エマンセ/薄切り): 150g
  • ハム(4枚): 200g

  • (仕上げ)
  • グリュイエールチーズ(ラべ/擦りおろす):20g

作り方

(クレープ生地)
  • ボールに卵と砂糖を入れ、よく混ぜる。ふるった薄力粉を加え、ダマにならないように混ぜる。
  • 1に牛乳を加えてしっかり溶かし混ぜ、焦がしバターを加えて漉す。冷蔵庫で休ませる。
  • クレープパン(クレーブ用フライパン)を使い少量のバターで焼く。網に上げ、冷ます。
  • (ソース・ベシャメル)
  • 鍋でバターを溶かし、ふるった小麦粉を加え、弱火でじっくりルーに火を入れ、粉けをとる。
  • 温めた牛乳を少しずつ加え混ぜ、ダマにならないように混ぜながら中火でベシャメルを炊く。
  • アセゾネ(塩・コショウ)して、味を整える。スプーン4杯分を別ボールに取り、冷ます。
  • 残りのベシャメルに生クリームを加え沸かし、味を整え、ソースを作る。
  • (ファルス)
  • フライパンでバターを溶かし、タマネギとマッシュルームをしっかりソテー(炒める)する。アセゾネ(塩、・コショウ)し、冷ます。
  • (成形)
  • クレープ生地を広げ、ハムをのせ、6のベシャメルをナッペ(塗る)し、8を乗せる。
  • グリュイエールチーズの半量をラべ(擦りおろし)して9にふりかけ、しっかり巻く。
  • (仕上げ)
  • グラタン皿の内側にブーレ(バターを塗り)し、巻いたクレープ10を並べる。
  • 7のソース・ベシャメルを全体にかけ、グリュイエールチーズをラペしてふりかける。
  • スチコンの場合(ホットモード・200℃・蒸気量100%・10分・風4)で加熱し焼き色をつける。※オーブンの場合(220℃・8~10分)

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フィセル・ピカルドの説明&シェフエピソード

 ベルギーと隣接するフランスの北部、かつてのノール=パ・ド・カレー地域圏とピカルディ地域圏が統合され、2016年、オー=ド=フランスという新名称になりました。今回はピカルディ料理として人気の「Ficelle picarde / ピカルディ風クレープグラタン」をご紹介します。地方料理、郷土料理としてのその歴史は1950年頃にアミアンの料理人マルセル・ルフェーブルが考案したのが始まりと言われています。焼いたクレープでハムやキノコやチーズを棒状に巻き包み、ソース・ベシャメルとチーズをかけて、オーブンでグラチネ(グラタン)する熱々の料理です。このクレープを巻いた形から「フィセル」と表現されています。フィセルとは直訳すると「紐」ですが、我々が調理のために使うタコ糸もフィセルと言います。パン屋さんでは、細いフランスパンをフィセルと言います。いわゆるバゲットは、長さ68cm、生地の重さ350g、クープ(切り込み)7本に対しフィセルは、長さ40㎝、生地の重さ150g、クープ5本と決まっていて、かなり細めのパンです。
 私がフランスで働いていたときの一日のルーティンで、昼の営業終わりにブーランジェリー(パン屋さん)に寄ってバゲットを1本買い、休憩中のおやつとして半分を、もう半分は夜食として「ヌテラ(フランスで人気のヘーゼルナッツペースト)」を塗って食べていた時期がありました。なので、このフィセルでは量的にぜんぜん足りないのです。但し、住んでいた村にブーランジェリーがある場合だけの限定的なルーティンでしたけれど・・・。

 クレープというと「原宿」あたりで若者たちが行列してでも買って食べたいホイップクリームたっぷりの甘いスイーツをイメージされる方が多いのでは。もちろんフランスでもパリあたりだと日本のようなクレープ屋さんがありますが、私がいた田舎の村などでは、とんと見かけたことがありませんでした。調理場では、パティシエがお客様のオーダーで時おりクレープを焼いたりしますので、焼き立て熱々生地にバターと砂糖を折り込んで、食べさせてくれるなんてこともありました。
 他方、次回地方のブルターニュ地方だとそば粉のクレープを使って、料理としても、そしてスイーツとしてもポピュラーに食べられています。「Galette /ガレット」という名前ですね。お店は「Crêperie / クレープリー」と呼ばれます。
 私が初めてこの「ガレット」を食べたのは、25才の時でした。たまたまBAR番(レストランの営業が終わった後、併設するバー用の料理を午前2時まで作る2人制の当番)のときに一緒になったフランス帰りの先輩が夜食として作ってくれたものでした。そば粉でクレープ生地を作り、フライパンで薄く焼き、とろけるチーズと卵を割り入れて、ハムと生ハムの端っこを並べ、四方をきれいに折って、そのまま余熱で火を入れるという作り方でした。食べてみると結構ボリューミーでお腹に溜まります。「日本でいうお好み焼きみたいなもんだよ。」と先輩。なるほど美味しいし、おしゃれな料理だなと思いました。そのときの私は、甘いスイーツ系のクレープしか知らなかったので感動ものでした。その先輩には、その他に「ティラミス」や「クスクス」、「手打ちパスタ」、「モンブラン」等、たくさんの料理やお菓子を暇をみつけては丁寧に教えていただきました。フランス時代のノートを見せてもらいながら沢山のお話も聞かせてくれました。今だに感謝しています。france-g29e7a1337_1920.jpg

▲クレーム・シャンティイが生まれたシャンティイ城は美しい競馬場でも有名

 余談ですが、スイーツのクレープにつきものの甘いホイップクリームをフランスでは、「Crème Chantilly / クレーム・シャンティイ」といいます。この「シャンティイ」は、オー・ド・フランス地方と言ってもパリから電車で30~40分のところにあるルネサンス様式の壮麗なお城「シャンティイ城」の名称からきていて、ルイ14世の時代、このシャンティイ城の宮廷料理人だったヴァテールが「クレーム・シャンティイ」を発明したと言われています。17世紀に活躍したこのヴァテール、コンデ公の元で1671年に3日間開かれたという伝説の大宴会が特に有名で、2000年仏英映画「宮廷料理人 ヴァテール」(主演ジェラール・デパルデュー)で鮮やかに描かれています。当時の宴会のシーン等、とても興味深いものなのでチャンスがあったら是非ご覧になってみてください。「クレーム・シャンティイ」を作るシーンももちろんありますので。

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▲晴れた日のシャンティイ城。パリからも近く、電車で約30分程

ここから前回の「ポール・ボキューズ」の続きです。パリからTGVで約2時間、リヨン・パール・デュー駅に到着。タクシーでボキューズに向かいます。予約時間丁度に到着。ドアマンに案内された店内は、結構空席がありました。夏のお昼だからでしょうか。私がフランスで働いていたレストランの夏は大忙しだったのに・・・。たぶん地方、地域によるのでしょう。確か在仏時、日本人の友人たちと訪れたサン・テティエンヌ時代の「ピエール・ガニェール」も当時三ツ星でしたが、ガラガラだった記憶があります。ベテランのメンテル(メートル・ドテル/給仕長)にテーブルへ案内され、席に着きます。メンテルから「今日、ボキューズ氏はアメリカでの仕事で不在です。」と聞いてもいないのに笑顔で告げられました。奥さんは少し残念がっていましたが、仕方のないことです。早速、メニューを開き、「すずきのパイ包み焼き」(2人前)を見つけます。これだ!奥さんにメイン料理の相談をしてみると「仔羊が食べたい。(彼女の大好物)」と。「あらっ・・・。」ここで喧嘩はまずいので、冷静に頭の中で作戦を練ります。しまった!事前に交渉しておくべきだったと反省していると突如、隣の老夫婦のテーブルで「すずきのパイ包み焼き」のゲリドンサービス(移動サービス台の上でサービスマンが料理を最終仕上げする作業)が始まりました。横目でちらっちらっと見ます・・・。このゲリドンサービスはフランス料理の醍醐味のひとつでサービスマンの腕の見せ所、晴れ舞台です。少し逸れますが、私が業界に入りたての新人の頃、調理にも必要だからと黒いベストに蝶ネクタイをして、腰には白いタブリエ(前掛け)を巻いて、接客に従事していた時代が数年ありました。その時の先輩方の鮮やかな、そして超絶技法的なゲリドンサービスのお話もまた別の機会に書きたいと思っています。ボキューズ写真空港.jpg

▲リヨンでは今もあちこちにポール・ボキューズのモチーフが使われている。シンボル的存在

戻ります。別のテーブルだけど「すずきのパイ包み焼き」を近くで見れたし、まっいいか。しょうがない。作戦も思いつきませんでしたし、2人とも仔羊に決定です。前菜はパイショックで記憶から消されています。仔羊もゲリドンサービスです。メンテルのすばらしい手つきでした。味も美味しくて完璧な火入れなのですが、量がものすごくて、勿体ないのですが、フランス料理のレストランで生まれて初めて少し残しました。
 そのあとフロマージュ(チーズ)・アヴァン・デセール(デザートの前の小さなデザート)・シャリオ・デセール(ワゴンデザート)・コーヒー・ミナルディーズ(お茶うけの小菓子)・ショコラと続き、お腹はパンパン。大満足でした。
 帰りのタクシーを待つ間、ドアマンに勧められてお庭にある日本のフランス料理界の偉人、辻先生(大阪あべの辻調理師専門学校元校長)と小野正吉ムッシュ(ホテル・オークラ元総料理長)の絵の前で記念撮影をして帰路につきました。運悪く車両故障の影響でTGVが遅れ、パリのホテルに着いたのは、午前0時過ぎ。長い長ーい一日でした。そう言えば、電車が動くのを待っていたリヨン駅のホームで私がトイレから帰ってくるとフランス人の中年夫婦(たぶん地方の田舎の人)がうちの奥さんと何やらニコニコ笑顔で話しています。私が近ずくと「ありがとう。パリ行きは8時に出発だね。」と言ってウインクしてホームの向こう側に歩いて行きました。「ん?」彼女に聞いてみると「何を言ってたのかさっぱり解らなかった。」と・・・。でも何かが通じていたのでした。不思議。(シェフM.T.)

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▲ロンドン~パリを走るユーロスター

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~ 次回はフィセル・ピカルド後編 第二章『ワインの話』をお届けします。お楽しみに ~

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