レシピの話

フランス地方料理を巡る旅

イル=ド=フランス地方

鴨のモンモランシー風(1)『レシピの話』

Canard à la Montmorency

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イル=ド=フランス地方の最後にご紹介するのは「鴨のモンモランシー風」です。モンモランシー(Montmorency)はパリの北部に位置し、イル=ド=フランス地方最大の森林が広がります。1600年代からサクランボが有名でした。またここは「鴨のルーアン風」で有名なルーアンとパリ平原をつなぐ要所でもありました。そんな場所で生まれたこのお料理、撮影後の試食で、美味しい!美味しい!と思わず連呼してしまう位でした(好みもありますが)。爽やかなサクランボの酸味と赤ワインソース、鴨肉の組合せは想像以上の美味しさでした。ぜひお試しいただきたいレシピです。サクランボも2種類使ったことで、果実自体に甘さと酸っぱさの変化があるのも気に入っています。サクランボの種を取る専用の器具もありますが、シェフはタピオカドリンクの太めのストローで綺麗にくり貫いていたのも発見でした!後半はフランスで研修する料理人のお話です。歩いても歩いても、飽きる事のないパリの街並みが目に浮かんでくるようです。ぜひお楽しみください。

~ 第1章 ~
レシピの話

<材料>(4人前)
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  • 鴨胸肉(2枚):350g
  • サクランボ(2種類):350g
  • グローブ(丁子):1本
  • シナモンスティック:1本
  • 砂糖:10g
  • タイム:4枝
  • ニンニク:1粒
  • ブランデー:50ml
  • 赤ワイン:300ml
  • フォンドヴォー:70g
  • フォンドヴォライユ:70g
  • バター:20g
  • 塩・黒コショウ・白コショウ:適量l
  • サラダ油:50ml
  • アスパラガス:12本
  • EX(エクストラ)オリーブオイル:適量
  • サラダ油:適量

    作り方

    • サクランボの種を抜き、赤ワイン、クローブ、シナモンスティックと共に一晩マリネする。
    • 鴨胸肉を掃除し、塩、黒コショウをして、タイム、ニンニクと共に焼き始める。
    • 2スチコン(コンビモード・20%・200℃・3分)で加熱してから取り出し、保温しておく。
    • 鴨胸肉を焼いたフライパンの余分な脂をふき取り、コニャック、1のマリネ液を加え煮詰める。
    • 別鍋に砂糖と1のサクランボだけを入れ、軽くキャラメリゼし、4を漉し入れ、バターモンテ※1する。
    • ゆでたアスパラガスを適当な長さにカットし、EXオリーブオイルをからめ、調味する。
    • 鴨胸肉をカットし、お皿に盛り付け、切り口に軽く塩をする。
    • 5のサクランボとソース、6のアスパラガスを盛り付ける。
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    <フランス料理用語注釈>

    ※1・・・バターモンテ(monter au beurre)ソースの仕上げに、冷たいバターの塊を少しずつ加えて溶かし混ぜ、ソースにコクや濃度をつけること。

    レシピの説明&エピソード

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    フランスの各地方を巡って、その土地ならではの料理をご紹介してきた「レシピの話」。今回の「Canard à la Montmorency」で全34品、一通り各地方を周りましたので、次回からは、また新たな切り口でフランス地方料理をご紹介できるように企画を進めて参ります。引き続きよろしくお願いします!

    鴨と果実とモンモランシーの関係

     さて、今回の舞台はパリの北部にある街「Montmorency / モンモランシー」です。森や湖を有し起伏に富んだ地形で、パリから10数kmと近距離にあるので、 19世紀にはセレブリティなパリジャンや有名人達が移り住み、おしゃれなクリエーター達が集まるリゾート地になっていたそうです。その住人の中にはかなり数奇な人生を送った哲学者ジャン=ジャック・ルソー(彼がいっとき住んでいた家は現在、博物館として保存されている。)や有名な作曲家ワーグナーなどがいます。彼の名前を知らなくても、彼の作品(1979年のアメリカ映画フランシス・フォード・コッポラ監督『地獄の黙示録』で印象的な場面で効果的に使われていたクラシックな曲)なら聞いたことがあるという方は結構多いのではないでしょうか。私もです。
     今回の料理の主役「サクランボ」は、ここモンモランシーの特産物として有名で、17世紀ぐらいから栽培されているそうですが近年は昔と比べると収穫量はだいぶ減っているようですね。このサクランボを使ったお菓子「Gâteau Montmorency / ガトー・モンモランシー」も有名で、アーモンドパウダー入りのビスキュイにサクランボのシロップ漬けを加えてオーブンで焼き、冷めてからピンクのフォンダンを全体に塗って仕上げた素朴な見た目のガトーです。
     「鴨とサクランボ」という組み合わせのようにフランスでは鴨に果実を合わせる料理が数多くあります。林檎や桃、レモン、葡萄etc。その中でも一番人気の果実はオレンジではないでしょうか。往年の三ツ星 「Lasserre/ラセール」のメニューに今も載る「Canard à l'orange/鴨のオレンジ風味」が世界的に有名です。天井がドーム球場の様に開いちゃうおしゃれでハイソなレストランとしても知られています。
     そこで修業された私よりもずっと上の世代のシェフ達が帰国して「鴨のオレンジ風味」を日本中に広めていったようです。いわゆるグラン・メゾンと呼ばれるレストランだからこそ映える料理で、実際、私が最初に就職したレストランのグランドメニュー(二人前より)にも載っていて、お客様の目の前で見事な手捌きでメートル・ドテルがゲリドンサービスを行っていました。まな板の上ではなく空中で鴨を捌いていくのです。まさに匠の技、グラン・メゾンの仕事でした。

    フランス研修時代のパリの思い出

     ここからパリでの思い出を少し。度々書いていますが、私はフランスの田舎ばかりで仕事をしていたので美しい大都会パリへは「御上り(おのぼり)さん」気分でたまに1~2日間行く程度でした。在仏時、常に財政難だったのでメトロに乗るお金も惜しく、可能な限り移動は徒歩。誰とも会わない、これと言って予定もないときは朝から晩まで無計画に気の向くままに歩きまわっていました。街角で偶然出会った早朝のマルシェで少量フルーツやトマトを買って食べたり、普通のブーランジェリーのバゲットを何も付けないで、かじりながら歩いたりと気ままなお散歩。歩き疲れたら公園のベンチで小休憩し煙草を一服、自販機の缶コーヒーを飲みたいところですがそんなものはフランスにはありません。そしてまた歩く。ときには知らずにやばい場所を歩いてしまい、ちょっとドキドキしたりと、ひとりぽっちならではの貴重な時間を過ごしました。夏場などは日が沈み始めるのが夜の9時過ぎなので知らず知らずに長時間のお散歩になり、足が棒になる程です。
     先程、バゲットのことを書きましたが、「フランス人が我先にバケットの両端を食べちゃう現象」って知っていました?私は現地に行って初めて知りました。観察してみるとお店で買って直ぐにかじっている人が結構いるので最初は驚きましたが、いつの間にか私も右にならえで、同じ行動をとるようになりました。端っこはカリカリしていて美味しいからが理由なのですが、かじってみると確かに美味しい。その頃の日本では硬いからと端っこは敬遠されがちでしたし、当時の日本のフレンチレストランではお客様にバゲットの端っこを出すことはなく、ある程度溜まったら調理場で乾燥させて、パン粉に加工したりしていました。今は日本でも自家製でパンを焼くお店が増えたのでそんな作業も昔ほどは多くはないと思います。皆さんも私も大好きなパンの話はまだまだ色々あるのですが長くなるのでまたどこかで書きます。

    パリか?地方か?研修先を決めた理由

      ここでパリのレストランのお話を。やはりパリは大都会なので素敵なレストランやミシュランの星が輝く高級レストランが沢山あります。そして多くの日本人のキュイジニエ達がそれらの名店で働いています。今や日本人の三ツ星シェフや二つ星シェフが誕生するなどとても素晴らしい時代です。彼らの異国での並々ならぬ努力と挑戦は同じ日本人としてとても誇らしく感じ、そして尊敬せずにはいられません。ただ当時の私は働く場所としてパリを選びませんでした。理由はただ一つ。住む部屋の家賃を払う金銭的余裕がないからでした。地方だと住み込みで働けるので家賃の心配がないのです。もうひとつ加えると当時20代の私にとっては地方のレストランへの興味の方が強くあったから。渡仏前に日本で見ていた雑誌や料理関係の本は圧倒的に地方のレストランの紹介が多く、広い調理場の写真やレストランがある街の風景などを見て漠然と地方に行ってみたいなと・・・。
        日々、地方のレストランで同僚たちと仕事の合間に話をしていると皆、ほぼ全員パリで働いた経歴があるのです。彼らはいわゆるエリートでパリを含めたフランス全土の三ツ星と二つ星(たまに)だけを回って自分自身のキャリアを積んでいくのです。シェフやオーナー達も業界にネットワークが張り巡らさせているので、「パリの三ツ星の○○シェフが優秀な日本人を探しているからここの次に行かないか?」とか日常的に言ってきます。ありがたいことなのですが、私はいつも心にもなく「パリは好きじゃないから・・・。」とお断りしていました。仲間に話すと「俺が行きたいよ。」と。
      緊縮財政生活(本人に悲壮感はまったくなし)でも毎月の給料をコツコツ貯金して、貯まったら星付きレストランへ食事に行くようにしていました。今まで地方での食べ歩きは何軒が書きましたが、今回はイル・ド・フランスなので、パリの三ツ星レストランを。そして私が最も感動した「L'ambroisie/ランブロワジー」での体験を書きたいと思いますが・・・、原稿のスペースがなくなってしまったので次回に続きます。(シェフM.T)

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