レシピの話

フランス地方料理を巡る旅

オーヴェルニュ=ローヌ=アルプ地方

エクルヴィスのグラタン ~レシピ編~

Gratin de queues d'ecrevisses

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今回ご紹介するレシピは「エクルヴィスのグラタン」です。「テロワール(その土地の個性、風土)に根ざす料理」を提唱し、多くの料理人を育てた偉大なる料理人フェルナン・ポワンのレストラン、ラ・ピラミッドのスペシャリテでもあったレシピを掘り下げます。« Turbot au Champagne(チュルボ/平目の蒸し煮 シャンパン風味) », « poularde de Bresse en vessie aux truffes(ブレス鶏のトリュフ入りベッシー包み) », « gâteau marjolaine(ガトーマルジョレーヌ) »など伝説のレシピは今も「ラ・ピラミッド」で事前にお願いしておくと食べることが出来ます。後半は研修時代のシェフのお話しです。いよいよパリの三ツ星ランブロワジーでの食事が始まります。

~ 第1章 ~
レシピ編

<材料>(3人前)
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  • エクルヴィス(食用ザリガニ):24尾

  • クール・ブイヨン
  • タマネギ(エマンセ※1):50g
  • ニンジン(エマンセ):30g
  • セロリ(エマンセ):20g
  • 水:3L
  • 白ワインビネガー:少々
  • 香草・ローリエ:適量
  • コショウ:少々

  • ブール・ド・エクルヴィス:20g(下記)
  • ブランデー:20ml
  • 生クリーム:150ml
  • ソース・オランデーズ:50g(下記)
  • レタスの葉:数枚

  • ブール・ド・エクルヴィス
  • エクルヴィスの殻:200g
  • バター:200g
  • 水:100ml

  • ソース・オランデーズ
  • ブール・クラリフィエ(澄ましバター):100g
  • 卵黄:1個分
  • 水:20ml
  • カイエンヌパウダー:少々
  • レモン汁:少々
  • 塩・コショウ

  • <フランス料理用語注釈>

    ※1・・・エマンセ(émincer)薄くスライスする


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    作り方

    • クール・ブイヨンの材料を鍋に入れ、火にかけて、アクを引きながら20分間煮出す。
    • よく洗い、背ワタを抜いたエクルヴィスを1で1分間茹で、氷水に取り、冷まし、殻をむく。
    • 鍋にブール・ド・エクルヴィスを入れ弱火にかける。エクルヴィスを加え、さっと炒めてからブランデーでフランベする
    • 予め少し煮詰めておいた生クリーム、ソース・オランデーズ、下茹でしたレタスを加え、味を整える。
    • 平らな耐熱容器に盛り付け、サラマンダー(上火オーブン)で焼き色を付ける。

    ブール・ド・エクルヴィス
    • エクルヴィスの殻とバターをフードプロセッサーにかけ、粉々にする。
    • 1を鍋に入れ、150℃低温のオーブンに入れ、20分ほどじっくり炒める。途中途中で混ぜる。
    • オーブンから鍋を取り出し、水を加えて弱火にかけ、沸かさずに水と油を分離させ火を止める。
    • 少し置いてから、浮いた油だけを慎重に漉し、冷ます。

    ソース・オランデーズ
    • ボールに卵黄と水を入れ、湯煎にかけながら泡立てる。この時60~65℃を保つ。
    • 火が入ったら、湯煎から外し、ブール・クラリフィエを少量ずつ垂らし加えながら泡立てる。
    • カイエンヌパウダー、レモン汁、塩・コショウで味を整える。

    エクルヴィスのグラタン 説明&エピソード

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    ラ・ピラミッドのスペシャリテ

     今回の料理は、「Gratin de queues d'ecrevusses(エクルヴィスのグラタン)」です。フランス地方料理というカテゴリーからは少し外れるかも知れませんが、我々フランス料理を志した料理人にとって絶対に知っておくべき料理の一つだと思い選択しました。この料理をスペシャリテの一品としてメニューに載せていたのが往年の三ツ星「Restaurant de la Pyramide(レストラン・ピラミッド)」。

    リヨンの少し南にある「Vienne (ヴィエンヌ )」という小さな田舎町にある伝説のレストランです。伝説といっても現在も存続していて、1989年からはパトリック・アンリルー氏がシェフとして「ピラミッド(二つ星)」を運営しています。私は在仏時、折角フランスにいるのだから世界一と言われた伝説のレストランに是非行ってみたいと1995年に同僚と食事に行きました。内容は長くなるので省きますが・・。食後、お店のシンボルでもあるピラミッドの実物を見て「想像していたものより意外にでかいぞ!」と感動したり、近くのローマ遺跡(囲いもない)の中を実際に歩いて登ってみたりとヴィエンヌの街を満喫してきました。良い思い出です。

    フェルナン・ポワン氏について

    三ツ星当初のオーナーシェフは「料理の神様」とまで言われた「Fernand Point(フェルナン・ポワン、1897~1955)」です。彼は1933年に三ツ星を獲得する以前から世間にその名は広まっていて、フランス国内だけでなく世界中のグルメな貴族や政治家、外交官そして起業家や芸術家、芸能人等の世界の名士たちが、こぞって彼のレストランを訪れ美食に酔いしれたそうです。
     ポワンはいち早く「テロワール(その土地の個性、風土)に根ざす料理」を提唱し、料理の簡素化や素材の風味の尊重など現代の料理に繋がる考えを実践したシェフでした。今回の「Gratin de queues d'ecrevusses(エクルヴィスのグラタン)」もこの考えを元に創作されていて、実にシンプルな工程ですが素材を活かした上品で美味しい料理です。
     彼は、同時代のアレクサンドル・デュメーヌ、アンドレ・ピックと共に3大料理人として讃えられる一方で、多くの弟子たちも育てあげました。その中には後に三ツ星を獲得した錚々たる面々、ポール・ボキューズ、アラン・シャペル、ルイ・ウーティエ、トロワグロ兄弟、フランソワ・ビーズ、クロード・ペローがいます。
     ポワン亡き後もマダム・ポワンと若きシェフのギー・ティバルが店を切り盛りし1986年まで三ツ星を維持しましていましたが、マダム・ポワンが亡くなってからミシュランはこの伝説のレストランの星を二つに落としました。料理本で見たことがある方もいると思いますが、彼女の手書きのメニューがとても有名で、私もよく辻先生の著書等で見ていて憧れていました。たまたま渡仏前、仕事終わりの飲みの席で一緒に働いていた先輩が実物のそのメニューを持っていてることがわかり、お願いしてコピーさせてもらいました。今でも大切に私の本棚のファイルに保管してあります。まだまだ「ピラミッド」や「ポワン」について書きたいことが山ほどあるのですが、長くなるのでまたの機会に・・・。
    アンリルー氏.jpg▲パトリック・アンリルー氏 誰もがポワン氏の死後、プレッシャーからその歴史的名店を引き継ぐのを尻込みする中、ボキューズ氏やトロワグロ氏などポワン氏の弟子たちによって推薦され、引き継いだのは当時まだ30歳を過ぎたばかりのパトリック・アンリルー氏。アンリルー氏によって現在もそのエスプリが引き継がれ、名店として輝き続けているのはご存知の通り。(写真提供:ラ・ピラミッド)
    ▼ヴィエンヌにある石造の尖塔「ピラミッド」( 映像出展:Le Dauphine libéré

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    感動のランブロワジーでの食事

     さて、ここから前回のパリ「L'ambroisie/ランブロワジー」の続きです。アミューズをつまみながらアラカルトでそれぞれ料理を選んだのですが、結局、後輩がフランスが「お初」ということもあり、二人とも同じ料理にしようということになりました。彼曰く、「感想を私と共有したいから。」ということでした。さあ、いよいよ食事のスタートです。
     一品目の前菜には、当時よく日本の料理雑誌に頻繁に載っていた「Feuillantine de langoustines aux graines de sésame, sauce au curry (ラングスティーヌのごまのフイヨンティーヌ カレーソース)」を選びました。大ぶりのぷりぷりラングスティーヌ(手長海老)とほうれん草をごまのフイヨンティーヌで挟んだ立体的な盛り付けです。ソースは上品に香るカレー風味のクリームソース。「美味しそう!」ナイフ、フォークを持ち、いざ・・・。「むむ???どうやって食べようか???」一瞬思考ストップです。何回も写真で見たはずなのに食べ方がわからない。焦りました。でもそこは天下の三ツ星レストランです。私の迷いを察知して、メートル・ドテルがすーっとテーブルに近づいてきて「手でごまのフイヨンティーヌをこう割って食べても美味しいですよ。」とジェスチャーも交えてスマートに教えてくれました。流石です。迷いがなくなり、どんどん食べ進みます。「旨い!」フランスの力強い食材をバランスよくシンプルに仕立てたパリらしい洗練された料理でした。ずっと感動しっぱなし。
     メインには「Fricassée de ris de veau aux câpres et céleri-rave(リ・ド・ボーのフリカッセ ケッパーとセロリラーブ添え~」をチョイス。こちらも料理雑誌に載っていた料理で、私にとってこの肉料理を食べることが今回の最大の目的でした。憧れていた料理です。目の前にサービスされた「リ・ド・ボー」は、これまた上品に盛り付けられ、香しい香りを纏っています。口に運ぶとリ・ド・ボー特有のねっとりした食感とセロリ・ラーブとケッパーとの絶妙な味のハーモニーに幸せを感じましたし、想像を超えてた味わいでした。後輩も大満足なようでニコニコです。銘柄は忘れてしまいましが、合わせた赤ワインも美味しくて少量でほろ酔い気分(お酒に弱いので)。最高です。

    甘すぎ?それとも抑えめ?

    アヴァン・デセールで「苺のソルベ」を頂いてから、メインのデセールは「Conversation(コンベルザッシオン)」をオーダーしました。名前は知っていましたが、初めて食べるお菓子です。グラス・ロワイヤルを塗って焼き上げているので、パリパリ、ピカピカの表面。甘みも強めで食事の最後を締めくくるのに相応しい、私にとっては印象的なデザートでした。スペインから来た後輩は甘すぎると言ってましたが、フランスで働いている私にはパティスリーよりも抑えめかなと思うくらいでした。それぞれの国の風土や文化によって砂糖の使い方や分量にも違いがあり、しばらくそこで生活していると味覚や身体が自然に順応していくもののようです。塩の使い方にも同じことが言えます。フランスで仕事して帰ってきた料理人なら誰もが経験したと思いますが、日本ではフランスの塩加減のままだと必ず「塩が強すぎ」と言われます。なので意識的に日本に順応しなければなりません。私も彼も初めての外国暮らしだったのですが、無意識のうちに彼はスペイン、私はフランスに少し順応していたのかもしれません。
     デザート後、全ては食べきれませんでしたがコーヒーとミナルディーズ、ショコラも少し頂いて「ランブロワジー」でのデジュネを終えました。残念なことにベルナール・パコーシェフは最後まで客席には現れませんでしたが、大満足な食事でした。夜は、当時二つ星のアラン・パッサールシェフの話題のレストラン「L'Arpège(アルページュ)」に予約をしているので速攻でホテルへ戻り、消化のために少し横になって「地獄の3軒連続食べ歩き旅」の2軒目に備えました。この時点ではまだ少し余裕があったのですが・・・。まさか・・・。(シェフM.T)

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