レシピの話

フランス地方料理を巡る旅

ブルゴーニュ=フランシュ=コンテ地方

【特別編】菊地美升シェフの『ブッフ・ブルギニオン』

Le boeuf bourguignon

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菊地美升シェフによる【特別編】は前回の「ジャンボン・ペルシエ」に続き、「ブッフ・ブルギニオン」をご紹介します。シャロレー牛と赤ワインの銘醸地であるブルゴーニュで生まれ、愛されている「ブッフ・ブルギニオン」。寒く長いブルゴーニュの冬には格別に美味しく感じられるお料理です。
 シェフのお店『ル・ブルギニオン(LE BOURGUIGNON)』でも人気メニューの1つ。長年試行錯誤を繰り返し、肉の部位や種類、火入れ方法にもこだわり、進化を続けて到達した珠玉のレシピ。通常のブッフ・ブルギニオンとイメージが異なるかもしれませんが、20年以上に渡り、毎年ブルゴーニュ地方を訪れ、フランス各地の注目レストランでの研修も欠かさない菊地シェフだけあり、食べた瞬間に、本場フランスで食べた時の味やブルゴーニュの風景が蘇ってくるようで感動しました。
 また、後半はワインに造詣の深い菊地シェフに、どんなワインと合わせるのがお薦めかも伺いましたのでお楽しみに。
※2024年2月にフランス料理文化センター(厨BO!)で実施した菊地シェフによる料理セミナーに、新たに取材した内容を追加したものです。

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▲ブルゴーニュの畑にて。年に一度は訪れ、買い付けも行う。(写真提供:菊地シェフ)

第一章
レシピの話

材料

<材料>
  • 牛ネック:3kg
  • 赤ワイン(750ml):3本
  • フォン・ド・ヴォー:2L
  • マール、クレーム・ド・カシス:適量
  • タマネギ:3個
  • ニンジン:3本
  • セロリ:3本
  • ニンニク:1頭

  • ソース
  • 煮汁:1.2L
  • フォン・ド・ヴォー:1L
  • ブール・マニエ:80g
  • ガルニチュール(1人分)
  • ペコロス(ミニタマネギ):2個
  • マッシュルーム:1.5個
  • いんげん:2本
  • パンチェッタ:適量
  • ブール・バチュー※1
  • タリアテッレ(乾麺):適量
  • クルトン:適量

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作り方

  • 牛ネックを掃除し、110~115gにカットし、十字になるように紐で固定し、塩・コショウをしてフライパンで焼き色をつける。
  • タマネギ・ニンジン・セロリは1/4にカット、ニンニクは半割に、焼き色をつけて、オーブンでしっかり焼く。
  • 鍋に赤ワイン、マール、クレームドカシスを加え、アルコールを飛ばし1の肉とフォン・ド・ヴォーを加える。
  • 1度沸かし、エキュメ※2をし2の香味野菜を加える。スターアニス(八角)、グローブを加える。
  • 200℃のオーブンに鍋ごと45分間入れる。
  • オーブンから鍋を出し、粗熱を取り、冷ます。これを全部で3回繰り返す。
  • 肉と煮汁に分けて保存する。
  • (ソース)フォン・ド・ヴォーと煮汁を合わせる。1/3程煮詰め、ブール・マニエ※3を加える。
  • (盛り付け)フライパンでパンチェッタを炒め、ペコロス、マッシュルーム、いんげん(下茹でしたもの)も順に炒め、全て合わせる。
  • 肉は煮汁で温めておく。
  • タリアテッレは沸いたお湯に塩をし、8~9分茹で、ブール・バチューで和える。
  • 下にタリアテッレを敷いて肉を乗せ、バターモンテ※4したソースをかけ、ガルニチュールとクルトンを乗せる。

  • 調整済み.jpg▲実際にランチコースで出されているブッフ・ブルギニオン
<フランス料理用語注釈>

※1・・・ブール・バチュー(beurre battu)少量の水に塩・胡椒してバターを加え、撹拌して乳化させたもの

※2・・・エキュメ(écumer)灰汁(あく)をすくう

※3・・・ブール・マニエ(beurre manié)柔らかくしたバターに同量の小麦粉を加えて練ったもので、ソースの即席とろみ付けに用いる)

※4・・・バターモンテ(monter au beurre) バターで仕上げる(ソースに少量のバターの小片を少しずつ加えながら鍋を動かし、なめらかな舌触りと輝きのあるものにする)

第二章
菊地シェフとブッブ・ブルギニオン


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▲ボーヌのマルシェ。フランスに行くとマルシェに行くのが楽しみだそう

菊地シェフによる二皿目は、ブルゴーニュを代表する肉料理「ブッフ・ブルギニオン」です。シェフのレストラン「ル・ブルギニオン」ではオープン当初からメニューに載り続け、そして今も進化し続けているスペシャリテでもあります。そして本場のフランスではブルゴーニュの地方料理という枠にとどまらずに、フランスの人々の国民食といっても過言ではないほどの定番料理です。
 それでは菊地シェフの「ブッフ・ブルギニオン」の特徴を見ていきましょう。まず主材料として一般的には牛バラ肉や牛肩肉などを使用するところを菊地シェフは近年、和牛の「ネック」を使っているとのこと。筋や脂、肉のバランスがとてもよく、大変気に入ってるそうです。部位の特徴としてかたまり肉になりにくいのですが、タコ糸で丁寧に縛り上げて調理するので問題はないそうです。
 特長的な点として、通常「ブッフ・ブルギニオン」は、牛肉を赤ワインで一定時間マリネしてから加熱していくのですが、菊地シェフはそのマリネをしません。マリネ液の中に肉の旨味が出てしまう気がするのと、その方が仕上がりとしてジューシーになるイメージなんだそうです。例外として野兎を使った「リエーブル・ア・ラ・ロワイヤル」などは、ソースの煮汁で煮たいものは逆に必ず赤ワインで肉をマリネしてから調理にかかるそうです。

長年の経験と感覚によってシェフの柔軟ではあるけれども確固たるその料理に対するイメージが様々あり、レシピはそれによって自在に変化していく「菊地ワールド」。もしかしたら人気繁盛店の秘密がこういうところにあるのかもしれません。牛肉を煮ていく過程でアルコール類は赤ワインとマールとクレーム・ド・カシスを加えます。以前はマールをどぼどぼ(思う存分)使っていたそうですが、昨今の物価高騰で思うようには使えませんと少しこぼされていました。それに比べて赤ワインはたっぷり使いたいので、南のラングドックやイタリアのサンジョベーゼ、キャンティあたりの比較的リーズナブルな物を選んで調整しているそうです。
 煮る時間もじっくり煮ては休ませてを3回ほど繰り返しながら火入れをしていきます。菊地シェフのお店のキッチンの屋外には棚があり、ランチやディナーの前に火入れをして、営業が始まったらそこでゆっくり休ませての流れのようです。
 ソースの仕上げにはブール・マニエで濃度と深みを出すようにしているそうですが、以前はブール・マニエを使っていなかったとのこと。それはフランス修業の最初のレストランでソースの仕上げがすべてブール・マニエだったことに当時は違和感と重さを感じたからだそうです。それが年々、菊地シェフの「ブッフ・ブルギニオン」が進化していく過程で「重さ」ではなく、「深さ」を表現するのにはブール・マニエが必要と感じ始め、現在の方法になっていったそうです。
 そして「ブッフ・ブルギニオン」には不可欠な付け合わせ「ガルニチュール・ア・ラ・ブルギニオン」。小玉葱・シャンピニヨン・ベーコンを丁寧に別々に調理して肉の上に。いんげんやクルトンも添えます。そしてこれまた定番の付け合わせの「ヌイユ」も一緒に盛り付けました。当日参加した他のアトラスのシェフ達からも「やはりこれがないとね。」との声が上がっていました。

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▲毎年訪れるドメーヌの1つ。おばあちゃん一人で作ってくれる料理が最高なんです、とシェフ。ドメーヌのワインと共におもてなし。Jacques Gagnard Delagrangeにて。(写真提供:菊地シェフ)

第三章
ワインの話

1本目

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ニュイ=サン=ジョルジュ≪レ・シャリオ≫2019
ドメーヌ・ミッシェル・グロ
Nuit Saint Georges≪ LES CHALIOTS ≫2019 Domaine Michel Gros

菊地シェフがチョイスした赤ワインが上記のもの。講習会ではこちらのワインを参加者みんなで試飲しました。

■ニュイ=サン=ジョルジュ(Nuit Saint Georges)について

偉大なブルゴーニュワインを数多く生み出しているコート・ド・ニュイの最南に位置し、また最も多くのプルミエ・クリュを持つ地区としても知られています。町を挟んで北と南に畑があり、印象としては畑や作り手によっても違いますがヴォーヌ・ロマネに近い北側はエレガントなワイン、対して南側は力強いワインだと言われています。


■ドメーヌ・ミッシェル・グロとミレジムついて

 今回のワインはニュイ=サン=ジョルジュの南側で、作り手は伝説の醸造家として知られるジャン・グロの長男「ミシェル・グロ」さんです。かつては「ジャン・グロ」というドメーヌ名でした。現在は当主のミッシェル・グロ氏の娘さんと息子さんが中心となって作られているそうです。ミレジムは2019年。「ここ数年(2018~2020年)ブルゴーニュはよい天候に恵まれ、果実味のしっかりした色の濃いワインができています。2019年も本当に素晴らしく、美味しいですね~」と実感のこもったシェフの感想でした。余談ですが、それが2021年になるとびっくりするくらい色が薄くなるそうです。しかし濃いワインに慣れた菊地シェフにとっては「何て可愛らしくて、エレガントなワインなんだろう。」という印象だったそう。評論家の点数も低いし、生産量も少ないですし、市場にもまだあまり出回ってないとのことですが「とてもチャーミングなワインでした。」とニコニコ菊地シェフスマイルでお話していただきました。
 調理デモ中はとても緊張していた(そうは見えませんでしたが・・・)シェフですが、ワインの試飲になるとリラックスムードでお話も滑らかになり楽しい時間となりました。

2本目

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Gevrey-Chambertin 1er Cre ≪Combe aux Moines≫ Vieille vigne 2015 Domaine Fourrier
ジュブレ・シャンベルタン プルミエ・クリュ≪コンブ・オ・モワンヌ≫ ヴィエイユ・ビーニュ 2015 ドメーヌ フーリエー

ブッフ・ブルギニオンに合わせるのに、少し熟成したワインも菊地シェフにお薦めしていただきました。ブルゴーニュの「ジュブレ=シャンベルタン」村のプルミエ・クリュ、≪Combe aux Moines≫畑のもの。「プルミエ・クリュの中でも、とてもしっかりとした骨格とフィネスを持つ畑です。作り手のフーリエーさんはその中でも、力強いだけでなく、非常にエレガントで綺麗なワインを造るので、少し煮込んだ料理と合わせてもいいと思いこれを選びました」とのこと。

2015年について

「こちらの2015年のミレジムは熟成し始めたところで骨太なワイン。2014年が美味しい飲み頃を迎えているところです。2015年はとても良い年なので、今も美味しいですが、これから5年位経った頃に真価を発揮するワインだと思います」とのこと。
ジャンボン・ペルシエに続きお届けした菊地シェフの「レシピの話」はいかがだったでしょうか。まだまだ菊地シェフにはブルゴーニュやワインのお話を伺いたいところですが、続きはぜひシェフのお店で。(掲載:2024.12)

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菊地 美升(きくち よしなる)
1966年北海道生まれ。
辻調理師専門学校卒業後、「オー・シザーブル」(3年半)、「クラブNYX」(約2年)を経て、1991年渡欧。
リヨン近郊「プーラルド」(1年)、モンペリエ「ル・ジャルダン・デ・サンス」(1年)、ボーヌ「レキュソン」(1年半)、フィレンツェ「エノテカ・ピンキオーリ」(10カ月)で修業。
1996年帰国し、「アンフォール」で3年4カ月シェフを務める。
2000年独立し、「ル・ブルギニオン」オープン。
2024年24周年を迎え、現在に至る。
LE BOURGUIGNON(ル・ブルギニオン)
〒106-0031 東京都港区西麻布3-3-1
定休日:水曜日・第二火曜日

写真提供:アートファイブ、菊地美升シェフ

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