レシピの話

フランス地方料理を巡る旅

オクシタニー地方

ヴォロヴァン トゥールーズ風 ~ ワイン編 ~

Vol au vent à la toulousaine

〇IMG_6574.jpg さて、ヴォロヴァン トゥールーズ風~レシピ編~に続き、今月はワイン編をお届けします。「風で飛んでしまう位軽いパイ」という意味のヴォロヴァン。木枯らしが吹き、肌寒く感じられるようになり、この料理もさらに美味しく感じられる季節がやってきました。今回はメートル・ド・セルヴィスの会の長谷川さんに執筆をご担当いただきました。「風」を切り口にしたエッセイ。私はコニャックに一番魅力を感じましたが、みなさんはいかがでしょうか? 自分のお気に入りのマリアージュを思い浮かべながらどうぞお楽しみください。

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▲ヴォロヴァン トゥールーズ風(Canard à la Montmorency)作り方はこちら

~ 第2章 ~
ワインの話
長谷川 純一(はせがわ じゅんいち)さん
(俺のフレンチ・グランメゾン 支配人兼シェフソムリエ)


 いつもコラムをご愛読くださっている皆様、いつもありがとうございます。俺のフレンチ グランメゾンの長谷川純一です。天・地・人への感謝を感じるヌーヴォー(新酒)のシーズンがやってきましたね。一昔前はヌーヴォーというとフランスのボジョレー・ヌーヴォー 一色でしたが、今では日本の新酒を楽しむイベントもたくさん増えてきましたし、縁と心が通うメンバーで楽しむ新酒の味わいというのは本当に素晴らしいものです。

 さてそんな時期に本日の俺のマリアージュは『ヴォロヴァン』。パイ料理というのはレストランで味わえる特別な料理というイメージがお客様にも強いですね。ちょっとお恥ずかしい話ですが、私のパイ料理のはじまりは「魔女の宅急便」に登場するお婆ちゃんの「ニシンのパイ」が最初に食べたいと思ったパイ料理でしたが、皆様はいかがでしょうか?

 お料理のコラムでもご紹介されていて改めて私も楽しく読ませて頂きましたが、『風』がキーワードになりそうですね!今日はそんな言葉の意味を結んだマリアージュを皆様にご紹介いたします。
 ブドウにおいても『風』の存在はとても重要です。例えば世界規模で考えるなら『偏西風』。とてもシンプルなイメージですが偏西風はワイン産地に存在する西側の海の気候を運んでくれます。ヨーロッパのように西側の海(大西洋)のように暖流が流れているのであれば暖かい海風を、アメリカ大陸のように西側の海(太平洋)のように寒流が流れているのであれば冷たい海風をブドウ畑に運んでくれます。当然ですが同じブドウ品種であったとしてもそれぞれの産地で表情は大きく異なってきます。
grapes-3680486_1280.jpg そして『ヴォロヴァン』。まるで強い風から一生懸命に身を守るかのように中の食材の美味しさを閉じ込めてくれるパイケース。まるで強い風で樹から落ちないように一生懸命に「実」を守るブドウに重なるかのようです。おそらくフランスで一番有名な風の名前はコート・デュ・ローヌ地方に吹く『ミストラル』という風の名前ではないでしょうか?フランスで最も川の流れが速いローヌ河近くのブドウ畑では、平均時速50kmもの強い風が週に何度も吹き付ける時期があるそうで、ブドウたちは生き残るために房を小さくし、それぞれの実をギュッと固めてそのミストラルの強風に耐えているそうです。そんなブドウから造られるワインの味わいは、それはそれは「凝縮度」の高い味わいに仕上がりますし、テイスティングを通してもその凝縮感をはっきりと感じることができるのですから不思議なものです。

 リ・ド・ヴォーとマッシュルームにブイヨンの旨味とクリームの滑らかさ、そこにサクサクとしたパイ生地がハーモニーを奏でるこの料理に、凝縮度の高い『風のワイン』のマリアージュはいかがでしょうか?「コンドリュー」のようにアロマティックで力強い白ワインでも、「エルミタージュ」のようにスパイシーでエネルギーに満ちた赤ワインでも、きっと素晴らしい食事の時間を約束してくれるでしょう。

 フランスでは『美食のゆりかご』のように比喩されるトゥールーズがある南西地方。もちろん様々な魅力溢れるマリアージュが考えられます。時短のこの時代に希少性が高まっているシャンパーニュに代表される瓶内2次発酵のスパークリングワインとの相性もお互いの味わいやフレーバーを高め合ってくれます。
 黒トリュフの産地でもあるこの地方では、その色に合わせて黒ワインの異名を持つ「カオール」という魅力的な赤ワインもございます。意外かもしれませんが、このヴォロヴァンに「コニャック」を合わせていくのもツウ好みの楽しみ方。ヴォロヴァンらしいサクサクとした軽やかな食感とリ・ド・ヴォーの旨味をコニャックが華やかに引き立ててくれることでしょう!
 皆さま是非、「俺なら(私なら)こうする!」というそれぞれの素敵なマリアージュを思い浮かべて頂き、楽しく読んで頂けたら幸いです。

 今年は暑い日が続きましたが、ここ最近は急激に冷え込みが厳しくなってきました。これからたくさんの楽しいイベントがある年末へ向けて、皆様もしっかりと「風邪から身を守って下さいね」。
 私の2023年のコラムはこれで最後となりますが、2024年も皆様にとって素晴らしい食の時間が訪れることを願うと共に、来年もまた皆様とコラムを通してお会いできる時を楽しみにしております。

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寄稿者:メートル・ド・セルヴィスの会 長谷川 純一(はせがわ じゅんいち)
    俺のフレンチ・グランメゾン 支配人兼シェフソムリエ
    メートル・ド・セルヴィスの会 幹事
    第 7 回 JALUX WINE AWARD 準優勝
    第6回全日本最優秀ソムリエコンクール セミファイナリスト
    第16回メートル・ド・セルヴィス杯 全日本大会 優勝
    第6回 CGB世界サーヴィスコンクール パリ大会 準優勝
     チーズプロフェッショナル、ワインプラスカレッジ講師 他

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