レシピの話

フランス地方料理を巡る旅

オクシタニー地方

ヴォロヴァン トゥールーズ風 ~ レシピ編 ~

Vol au vent à la toulousaine

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今回ご紹介するレシピはフランス料理をされる方にぜひ伝えたい古典料理の一つ「ヴォロヴァン」です。パイ生地をお皿に仕立ててその中に具を盛り付けます。19世紀に活躍しフランス料理の発展に大きく貢献したアントナム・カレームが考案したレシピです。数人で切り分けて食べる料理のため、今はレストランのメニューに載ることは少なくなってしまいました。その代わり、ブッシェという小さい一口サイズや一人用を見かけるようになりました。パイ生地を上手に焼き上げる技術が求められます。アントナム・カレームはパティシエだったのできっとサクッと軽いパイ生地を上手に焼き上げていたでしょう。さまざまなヴォロヴァンがありますが、今回はトゥールーズ風をご紹介します。後半は研修時代のシェフのお話しです。いよいよパリの三ツ星ランブロワジーを訪れます。

~ 第1章 ~
レシピ編

<材料>(4人前)
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  • フイユタージュ(折り込みパイ生地):1台分※Galette des roisのぺージ参照
  • リドボー(胸腺肉):400g
  • バター:50g
  • マッシュルーム(トランシェ:薄切り):140g

  • ◎ソース
  • バター:30g
  • 薄力粉:30g
  • 白ワイン:100ml
  • ブイヨン:250ml
  • 卵黄:1個分
  • 生クリーム:100ml
  • 塩・コショウ
  • レモン汁:適量
  • トリュフ(細かく刻む):適量
  • パセリ(細かく刻む):適量

  • ◎鶏肉のクネル
  • 鶏胸肉(ひき肉):200g
  • 薄力粉:30g
  • 卵:1個
  • 生クリーム:30ml
  • バター:30g
  • 塩・コショウ

    作り方

    • リドボーは流水にさらして2時間程血抜きをし、塩を入れた湯で5分程ブランシール(茹で)し、氷水で冷やす。
    • 1が冷えたら、表面の膜や脂を取り除く。一口大にカットし、軽くアセゾネ(塩・コショウ)してバターで焼く。途中からマッシュルームも加えて焼く。白ワインを加え軽く煮詰める。
    • 別鍋にバターを溶かし薄力粉を加えルーをつくる。ブイヨンを加え、煮詰めてソースベースを作る。
    • 鶏肉のクネルの材料をロボクープ(撹拌機)でしっかり合わせ、味を整えてから塩を入れた湯で下茹でする。
    • フイユタージュ(折り込みパイ生地)を伸ばし、直径15cmの円形一枚と、直径15cmの内側を直径12cmのリングで抜く。
    • ドリュー(照り用卵)を塗って重ね、数回ドリューを塗ってからスチコンで焼き上げる。(ホット・200℃・25分・風量3)後、温度下げて(ホット・190℃・15分・風量3)
    • 3のソースベースに生クリームとトリュフを加え混ぜ、24も加え全体に火を通し、レモン汁で味を整えてから卵黄を加え混ぜて仕上げる。
    • 6の中に7をたっぷり詰めてパセリをふる。
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    ヴォロヴァン トゥールーズ風 説明&エピソード

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    風で飛ぶほど軽いパイ

     古典フランス料理好きには堪らないネーミング【Vol-au-vent/ヴォロヴァン】。「vol」は飛ぶ、「vent」は風を意味します。要するに【Vol-au-vent/ヴォロヴァン】とは「風で飛んでっちゃうくらい軽いパイ料理」という意味です。お肉の煮込みや魚貝の煮込み等をパイに詰めて仕上げるインパクトのある料理です。

    残念なことに今では日本やフランスの高級レストランの調理場ではなかなかお目にかかれない仕事となってしまっています(私の経験した範囲内で)。元々はフランス起源の料理で、かのアントナン・カレームの創作とも言われているのですが、意外にも今日ではフランスよりもお隣ベルギーの方が一般的な食事として人々に親しまれているそうです。
     今回の「ヴォロヴァン トゥールーズ風」の特徴はパイの中に詰める「Ragoût à la toulousaine/トゥールーズ風ラグー」にあります。家禽や家畜の加工が盛んな地域だけにリ・ド・ボー(仔牛の胸腺肉)や鶏肉のクネル、シャンピニヨン・ド・パリにトリュフと盛沢山。撮影時は入荷できずに省きましたが、鶏のとさかや内臓類も入ります。それらの材料を「sauce allemande/ドイツ風ソース」※1で煮込んでいきます。余談ですが、このソース、実はドイツ風と言ってもドイツ生まれではないのです。カレームいわく、茶色い「sauce espagnole/スペイン風ソース」※2に対して黄金色のソースなのでドイツ風としたらしい・・・。ちなみに「sauce espagnole/ソース・エスパニョール」もスペイン発祥ではないのです。もうひとつ加えると「sauce allemande/ドイツ風ソース」と「sauce parisienne/パリジャン風ソース」は同じものだということです。私は先輩からそう教育を受けました。

    食いしん坊な王妃を心配して?生まれたブッシェ


    私が業界に入ったばかりのころ、お店のランチメニューに「Bouchées aux fruits de mer/(魚介類のブッシェ)」という料理がありました。こちらは小さいパイケースにシーフードのクリーム煮をこぼれる程にたっぷり詰めた盛り付けで、これで一人前のポーションです。パイの直径は6cmくらい、文字通りの一口サイズ。一方、【Vol-au-vent/ヴォロヴァン】はパイの直径が15~20㎝くらいの取り分けサイズです。「Bouchées/ブッシェ 」にはこんなお話も。フランス王ルイ15世の王妃マリー・レクザンスカが大のグルメで、毎日のようにお気に入りの【Vol-au-vent/ヴォロヴァン】を食べていたそうです。複数人で食べる分には良いのですが、一人でもこのサイズを食べてしまうので、宮廷の人々や料理人たちが心配して小さめの「Bouchées/ブッシェ」を考えだしたとか。なので、こちらは「Bouchées à la reine/(王妃様用のブッシェ・王妃風ブッシェ)」という料理名になっています。

    デザートにもあるヴォロヴァン


     フランスの調理場で忙しく働いていたある日、パティシエがいつもと違う仕事をしているから見てきなよとソーシエの同僚に言われ、手を休めてパティシエの部屋を覗いたところ、丸く焼き上げた大きなフイユタージュにたっぷり色とりどりのフルーツが盛り付けてあって、数種類のソースとソルベと共に銀のプラトーにのせてサービスのコミが客席に運んで行くところでした。毎朝、前日の余ったショコラと朝食用の小さめのパン・オ・レザンの残りを内緒で私にくれていたシェフ・パティシエに聞いたところ、「あれはVol-au-vent/ヴォロヴァン」だよと・・・。「へ~!お菓子も【Vol-au-vent/ヴォロヴァン】ていうんだ。」恥ずかしながら初めてそこで知りました。

    いよいよランブロワジーへ


     さっ!ここから前回の続きパリ「L'ambroisie/ランブロワジー」での食事のお話を。店名の「L'ambroisie」とは、古代ギリシャ語で「神に捧げる料理」という意味だそうです。現在は内装も改装されモダンな雰囲気になっていますが、私が訪れたときは古いタペストリーが印象的なシックな内装でした。やっと予約が取れフランスに寄ってから日本へ帰国する後輩を伴って、スペインからパリへ夜行バスで向かいました。道中、様々な事件がありながらも早朝のパリへ到着。昼まで時間を潰して、スーツに着替えネクタイを締めていよいよ「ランブロワジー」での食事です。男二人ちょっと緊張しながらテーブルに案内され席に着きます。
    スペインで仕事をしていた後輩にとっては初めてのフランス三ツ星レストランでの食事です。そして二人にとってはこの後に続く「地獄の3軒連続食べ歩き旅」の1軒目でした。詳しくは「Huître au champagne」と「Biscuits roses de Reims」のページで綴っておりますので、よかったらそちらも読んでみてください。
     パリの三ツ星レストランの昼食をシャンパンでスタートします。グラスを傾けながらのメニュー選び。La carteに集中しなくてはいけない状況なのですが、どうも周りが気になります。そこでチラッと各客席を観察。田舎のレストランの広々とした客席にすっかり慣れているせいか、全体的に少し狭く感じます。でもエレガントな空間なので不思議に居心地は良い感じです。「これがパリの三ツ星かぁ~。」あらためて感動してしまいました。見渡すとどうやら東洋人は我々だけのようです。あと意外にひとり客が多いのも驚きでした。田舎のレストランで働いているとひとり客は大体、日本人のキュイジニエ(私もです。)かグルメな日米のビジネスマンというパターンがほとんどだったので・・・。
    そのひとりで食事されている方々は男性陣はビシッとおしゃれに決めた中年から初老のビジネスマン風。そして唯一の女性は品のあるドレスの60代くらいのマダム。正式名称は知らないのですが「シャンティイで開催される競馬の凱旋門賞でご婦人方がかぶるような感じの大きな帽子」の真っ赤なのをちょい斜めに被り、とてもお上品に何の違和感もなく食事をされていました。ワイングラスを持つ所作も実に美しく、まるで映画のワンシーンを見ているかのようでした。その光景は今も鮮明に色褪せることなく私の記憶に残っています。「やっぱパリ(都会)は違うなぁ。」とまたまた感動してしまいました。
    そうこうしているうちにアミューズとして一口サイズの貝のタルトレットが運ばれてきました。さあ早く料理を決めなくては・・・。
    またまた余談が多くて原稿のスペースが足りなくなってしまったので、ここからの続きはまた次回に。(シェフM.T)

    <フランス料理用語注釈>

    ※1・・・ドイツ風ソース(sauce allemande)→卵黄と濃いクリームでとろみをつけ、レモン果汁で味付けしたソース。アントナン・カレームが「19世紀のフランス料理術」の中で定めたフランス料理の4つの基本ソースの一つ

    ※2・・・エスパニョールソース(sauce espagnole)→フランス料理の褐色の基本ソースのこと。アントナム・カレームが基本ソースの一つに挙げ、その後オーギュスト・エスコフィエが5つの基本フランス料理のソースの一つとしてその名を広めた。IMG_6568.JPG

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